革命前夜~1994年の近鉄バファローズBACK NUMBER
「えっ、嘘だろう」開幕戦で野茂英雄まさかの交代にクローザー赤堀元之を襲った呪縛「ゼロでいかなきゃ」…1994年の近鉄の歯車はこうして狂い始めた
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2025/05/02 11:07

92、93年とセーブ王を獲得していたクローザー・赤堀元之。だがまさかの野茂英雄交代から近鉄の歯車は狂っていった
「あとから考えてみたら、悪い心理だったなと」
それが、開幕戦という独特の空気感であり、直前まで大偉業に向かって突き進んでいた先輩投手の快投を受けてのマウンドゆえだった。
「ゼロでいかなきゃ」と思ってしまった
「僕もその時は『ゼロじゃなきゃ』って思ったんでダメだったんです。いつもなら、勝てばいい、と思っているのに、その時は冷静さを失っているんでしょうね。開幕だし、野茂さんが投げてるし、だから『ゼロで』って思わなかったら、多分抑えているシーンです。自分の中で変な心理になって『絶対ゼロ』って思って、そのまま行ってしまったんです」
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光山英和も、変わりゆく状況の中で、必死に“次”へと思考を巡らせていた。
「代わるの? って感じでしたね。でも、僕は試合に出ていたんで、そんなにものすごく変な感じではなかったです。どうやって抑えるか、と、そっちでしたね」
光山に「ゼロでいかなきゃ」という強迫観念に近い思いがあったという、赤堀の述懐を告げると、大きくうなずいた。
「そりゃ、開幕戦でノーヒットノーランの後だったら、誰でもそうなりますよ」
史上初の一打で天国から地獄に
伊東に4球連続ファウルで粘られての、赤堀の8球目だった。
高めのスライダーを振り抜いた打球は、左中間スタンドへと飛び込んだ。伊東にとって、通算1000安打となるメモリアルの一打は、開幕戦逆転満塁サヨナラ弾という史上初の快挙だった。
天国から地獄。頂点からどん底へ。その対比を表す、ありきたりのどんな言葉を連ねようとも、表現し切れないほどの落差だ。
最後の最後に、ベンチが打った手が裏目に出て、すべてがひっくり返った。
何を、どう、誰に取材すればいいんだろう。気持ちも状況も整理できないまま、私もとにかく、三塁側ベンチ裏へ急いだ。
異様な空気の中で、鈴木の囲み取材が始まる。
「一番、イヤな負け方をしてしまった」
根性や、気持ちや、練習や。
その精神論への傾き具合が、近鉄の選手たちとの乖離を生んでいた指揮官が、最後に頼ったのが「数字」だった。