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ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
「バム戦はぜひ見たい…井岡一翔も面白い」寺地拳四朗は“上の階級”でも通用するのか? 長谷川穂積が太鼓判「倒せなくても勝つボクシングができる」
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/03/18 17:38

ユーリ阿久井政悟との激闘後、スーパーフライ級への転向を示唆した寺地拳四朗。ジェシー・“バム”・ロドリゲスや井岡一翔との対戦は実現するのか
「残り10秒の拍子木が鳴って、阿久井選手がワンツーを3度打つんです。これがけっこう“投げている”ような打ち方で、体に力が入っていない。足がついてきていない。パンパーンではなくパーン、パーンみたいな。何が理由かは分かりませんけど、ちょっと疲れてきたのかな、脳のスタミナが切れてきたのかなと気になりました。まあ、あと1ラウンドですから、何とか大丈夫なのかなとは思ったんですけど……」
勝負を分けた“わずかな差”は何だったのか?
寺地の参謀、加藤健太トレーナーは11回を振り返り「ユーリくんが緩んできているように見えた」と語っている。長谷川さんと同じように阿久井の変化を見逃さなかった。そして最終ラウンド、寺地の劇的なTKO勝利が生まれたのである。
「やっぱりね、僕は寺地選手の11ラウンドの戦い方が巧かったと思うんです。阿久井選手は頭も体もしんどい状態だった。限界に近づいていたのかもしれません。一方、寺地選手は頭を使ってラウンドを組み立てた。セコンドの指示を取り入れながら、自分のボクシングをした。大接戦でしたけど最後の最後にそこの差、わずかなんですけどね、キャリアの差が出たのかなと感じました」
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長谷川さんの目に焼き付いたシーンが試合後にもあった。中村勝彦レフェリーがストップに入った瞬間、寺地陣営の横井龍一トレーナー(三迫)がすぐさま阿久井のもとに駆け寄り、レフェリーとともに阿久井の体を支えたのだ。一瞬の出来事だった。
「横井トレーナーの反応は素早かったですね。選手の安全を守る。これは勝負とは関係なく一番大切なことです。僕自身、ジムの会長になって選手を守る立場です。あの姿はとても勉強になりました」
不利予想を覆そうとした阿久井の覚悟と、トップ戦線を走り続けてきた寺地の底力にうならされた。ボクシングの魅力が存分に伝わってきた試合だった。