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「トレードに出した甲斐があった」落合博満が微笑みながら握手を…野村克也と共通の教え「考える」「とにかく練習」は今も元首位打者・鉄平の心に
text by

間淳Jun Aida
photograph bySankei Shimbun
posted2025/02/27 06:02

野村克也と落合博満。首位打者を獲得した鉄平にとって、野球人生を変える2人の指揮官だったことは間違いない
「私は野村監督があまり好きではない打ち方をしていました。しっかり軸足を固めて、両手でバットを振り切るように繰り返し言われましたね」
鉄平は投球をできるだけ長く見る打ち方を大事にしていた。ギリギリまで投球の軌道を見極めてファウルで粘ったり、当たり損ねでも内野ゴロにしたりすれば、出塁の確率を高められると考えていたためだ。その結果、たどり着いた打撃フォームが、時に走り打ちと呼ばれる軸足の使い方や、フォロースルーで左手を放すスイングだった。
コーチ陣が野村監督をなだめたりしてくれたのは…
野村監督からの指摘を受け、鉄平は何度も打撃フォーム修正を試みた。だが、練習しても上手くいかなかった。空振りが増えてしまうのだ。鉄平は「結構な長い期間、試行錯誤しましたが、自分の打ち方を変えられませんでした」と話す。結局、結果を出すためには、指揮官が好まない打撃フォームで打席に立つしかなかった。
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「当時は気付きませんでしたが、今になると、当時のコーチ陣が自分を相当かばってくれたんだと思っています。自分を起用するように促したり、野村監督をなだめたりしてくれたのは一度や二度ではないと感じています」
スタメンで起用された鉄平には、主力の自覚や責任感が芽生えた。試合に臨む準備や意識も変化する。中日時代はシーズン中も目いっぱい練習していたが、楽天では試合に向けた準備を重視した。
「中日は練習が厳しかったですし自分自身も若かったので、試合前の練習でヘトヘトな状態のままベンチから試合を見ている感じでした。スタメンでの出場が多かった楽天では心、体、頭の準備に重点を置きました。練習で疲れをためてしまうと、シーズンを戦い抜くことが難しくなります」
「野村野球は準備野球」…じつは選手に任される
技術を高める時間が長かった中日時代と異なり、楽天では技術を試合で発揮してチームに貢献する方法に注力した。楽天では試合前に対戦する投手のデータを分析。相手打者についても打球方向やパワー、カウントによって打撃を変えるのかなど、特徴を把握してから試合に臨んだ。練習の目的は「動きの確認」に変わった。
「ルーティーンでやっている練習で日々の違いが出るので、その日に自分の体が思うように動くかを確認します。足や腰が張っているという表面的なコンディションはもちろん、緻密で繊細な打撃の瞬間的な感覚も含まれます。スイングする一瞬の動きの中で自分が思った通りにバットを出せて、ある程度自分が思い描いた打球が飛んでいるかどうか、ほとんど毎日誤差が出るんです。その修正に時間を使っていました」
試合前のフリー打撃で、あえて三塁側にファウルを打つ練習を取り入れたのも楽天に移籍してレギュラーに定着してからだった。