「江本さん、批判はこのくらいにしときいや！」03年の星野阪神フィーバーは異様だった「星野仙一さんは世間をすべて…」江本孟紀が明かす裏話 

「なんなんだ、この雰囲気は……」

　僕が内心たじろいでいるうちに、番組は終了。その後、この番組に呼ばれることは二度となかった。テレビは時として時代の顔を映す。そのことは僕もよくわかっているつもりだったが、星野さんを批判しようものなら、関西のテレビが許さなかった。

　いや、テレビだけではない。スポーツ紙も含めてだ。

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　一部のスポーツ紙の記者のなかには、星野さんを批判する論調で記事を書いた者がいた。だが、そうした連中は星野さんに呼ばれ、「なんやこの記事は……」と例の口調で言われる。

　これでは星野さんの批判など書きようがない。阪神の監督就任前、星野さんは関ケ原の向こう側で、自分の居場所がなくなってしまったのがウソのような状況だった。

“星野本”を出版しようとしたら本人から電話が

　さらにそうしたあおりを、僕もまた受けていた。

　当時、ちょうど星野さんのことを書いた本を出版しようと、編集者と一緒に原稿チェックをしていたときのことだ。突然、僕の携帯が鳴った。着信を見ると星野さん本人からだった。

「江本です。ご無沙汰してました」

　僕がこう答えると、電話の向こう側で星野さんが黙っている。時間にして10秒……、いやもう少し長かったかもしれない。その直後、星野さんは野太く低い声でこう言った。

©Sports Graphic Number

「お前、オレの本を出すらしいじゃないか」

　おそらく僕が星野さんの本を出すというのを、旧知の記者から聞いたのだろう。

「いやいや分析論ですよ。そんなに難しいことを書いているわけじゃありません」

　僕がこう答えると星野さんは、

「それ、ホンマに出すんか？」

　そういった直後、再び沈黙した。

決して声を荒げない星野さんだったが…

　今、振り返ってもなんともいえない微妙な間だったが、ここで言い訳がましいことを言っても仕方がない。そこで、本の内容について、あらためて説明し始めたら、

「わかった。もうええわ」

　と、星野さんのほうから電話を切った。「ふう」と僕は大きなため息をついた。時間にして10分あったかないかぐらいだったが、まるで星野さんと30分以上電話しているように感じた。

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