「全く真逆…今回はこう来たか」元世界王者・飯田覚士が注目した“絶対王者”井上尚弥の戦い方「キム・イェジュンにとって相当な衝撃だったはず」 

　未知の要素が多く、トラブルメーカーの異名を持つキムに対する情報収集をメーンに置きながらも、ジャブから丁寧に組み立て、ストレートをボディーに打ち込む。ガードは下げないままじっとアンテナを張っていた。

「スイッチヒッターのキム選手がサウスポーで来るのは予想できたことではありました。グッドマン選手と構えが違えば、プラスに働くと考えてもおかしくありませんから。尚弥選手がああやってジャブを突くのは相手がどう反応するか、どう動くかを探るためでもある。おそらく一番見たかったのは左ストレートの軌道だったはず」

　しかしキムはその左を出さない。いずれも井上に届かなかったが、3分間で放ったのはわずか2発だけだ。

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「左を（顔の横の位置に）セットして、ずっと打てる位置にはあったんです。ジャストミートできる位置にセットしている以上、尚弥選手も安易に入ってはいけない。逆に引き出すようにして誘っても、まったく動じないし、左はピクリとも動かない。これはキム選手の作戦だったのかもしれません」

　左の情報を極力出さないといってもそれは時間稼ぎにしかすぎない。ならばと攻略法を変えて駆逐してくるのが絶対王者である。キムからすれば、まだ軌道を読み取らせないうちに何とか一発、ヒットさせたいという思いがあったはずだ。先に被弾しないようにかなり注意を払っていた。

キムにとっては相当な衝撃だったはず

　2ラウンドに入って一気に情勢が動く。井上は軽快なステップから多彩なジャブ、右ボディーショット、左フック、ノーモーションの右と揺さぶりを掛けていく。これにキムも応じる展開になった。

2ラウンドに入ると井上のパンチがキムを捉え始める　©︎Naoki Kitagawa

「キム選手が“井上対策”を忠実に実行していたことはよく分かりました。右ストレート、左フックを特に警戒して、頭を低くしてガードも意識していました。そのうえで左も打ってきた。でも同じような軌道で2度目を打とうとしたら、尚弥選手にジャストタイミングで合わされた。これは本人にとっては相当な衝撃だったと思いますよ」

　読み取るには一発で十分だったというわけである。

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