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「最初は風当たりが強かった」益子直美が10年続けた「監督が怒ってはいけない大会」の今とこれから。
text by

石井宏美Hiromi Ishii
photograph byAsami Enomoto
posted2025/02/14 11:30

2015年から「監督が怒ってはいけない大会」を続ける益子直美さん
元競泳選手の竹村幸さんは、実は幼少期に体罰を受けた辛い過去がある。その経験は競技人生にも影響したと明かした。
「自分が積極的に挑戦をして失敗して怒られたり殴られると、自分が頑張った行動やかけてきた時間がすべて否定された気持ちになるんです。だから、私も自己肯定感が低く、自信がなかったですね」
この大会の存在は記事を通して知ったそうだが、実際に初めて参加したときは大きな驚きがあったという。
「子どもたちがみんな笑顔で生き生きしている姿に感激しましたし、正直、羨ましいなと感じました。恐怖や体罰は人生に必要ないし、それがなければスポーツは人生を豊かにしてくれるものだと思います」
昨年夏には同大会にとって嬉しいできごともあった。
6回連続で参加している福岡県・飯塚市で活動する幸袋ジュニアが、“怒らない指導”により全日本バレーボール小学生大会で優勝を果たしたのだ。
「監督さんが“怒らなくても勝ちました”とコメントもしてくださったんですが、うれしかったですね。怒らなくても勝てることを、まさに実証してくれたと思います」(益子さん)
幸袋ジュニアの堀田監督は、「監督が怒ってはいけない大会」に参加する以前から、“怒らない指導”で子どもたちの可能性を伸ばしてきた指導者だ。
日ごろから重要視しているのは子どもたちの主体性。「自分で考えて次は何をしないといけないかを考えなさい」という言葉がけを行っているという。
「体育館に来たときだけではなく、例えば食事の後に自分が使った食器を自分で下げるとか、親から言われて動くのではなく自分から動きなさい、と話していますね。次は何をしなければいけないのかを咄嗟に考えて行動に移すのがバレーボールなので」
10年で必要ないと言われるくらいに
2015年にこの大会をスタートさせた当時、益子さんがスタッフと目標設定したのが10年で終止符を打つことだった。
「10年で必要ないと言われるくらいにしたいと思っていたんですが、今はまだ必要なのかなと感じています。大会を重ねる度にいろいろなアスリートが参加してくれ、他競技に広まりつつあるのでもう少し続けたいと思っています」
「監督が怒ってはいけない大会」を開催する一方で、2022年からは新しい取り組みもスタートさせた。それが「つながるリーグ」だ。
「怒ってはいけない大会のセカンドステージという位置づけです。トーナメントだとどうしても勝利至上主義になってしまうので、リーグ戦を立ち上げました。福岡、広島、大阪、山口、大分の5拠点で開催していて、今年の6月には長野でも始まる予定です」
サポートアスリートの竹村さんが「監督が怒ってはいけない水泳大会」を開催し、久保大樹さんがサポートするなど、活動はさらなる広がりを見せている。
「バスケットボールやサッカー、野球など、さらにいろんな競技に広めていきたいですね。今後はバレーボール単体だけではなく、色々な競技とコラボをしてマルチスポーツで大会を開催したいです。きっとバレーボールの常識が他競技ではそうではなかったり、気づかないことがたくさんあると思うので。他の競技のいいところをどんどん取り入れていきたいと思っています」(益子さん)
3つの理念を軸に2015年から年々パワーアップしてきた「監督が怒ってはいけない大会」。10年という節目を迎え、さらにもう一つ上のステップへ。これからもその歩みを止めることはない。
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