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「最初は風当たりが強かった」益子直美が10年続けた「監督が怒ってはいけない大会」の今とこれから。
text by

石井宏美Hiromi Ishii
photograph byAsami Enomoto
posted2025/02/14 11:30

2015年から「監督が怒ってはいけない大会」を続ける益子直美さん
「『お前もそう成長したじゃないか』『お世話になった監督を裏切るのか』と言われたり、『そんな甘いことをしているから日本のスポーツ界はダメになるんだ』と厳しい言葉を散々言われましたね。でも、回を重ねていくと、なかには『変わりたいけど変われない』という監督さんや、『どうすればいいんですか?』と悩みを告白してくれる監督さんもいて」
この大会では、試合中に怒ってしまった監督に×マークが描かれたマスクが渡されるのがルールになっている。
さらに勝利や技術の高さを賞するだけでなく、笑顔が印象的だった人に授与する「スマイル賞」「スマイル監督賞」を設けるなど、ユニークな仕組みがあるのも特徴だ。
今回で10回目を迎えた1月12、13日の福岡大会では、×マークの出番はなかった。それほど、“怒らない指導”が浸透していることが伝わってきた。
さらに今大会は初日に行われたスポーツマンシップセミナーの後に、初めて選手宣誓するという試みも行った。益子さんはこうして常に大会を進化させてきた。
「“我々選手一同はスポーツマンシップにのっとり……”という言葉がありますが、実際のところ分かっていない人が多いと思うんです。セミナーを行った後に、『選手宣誓やりたい人?』と聞いたらたくさん手が挙がりました。そういった姿からも子どもたちが主体的に行動しているなと感じていましたね。また、学年が上がって参加する子どもたちが変わっても主体的に動くことが出来ているのは、監督さんや保護者の方々のおかげでもあると思います」
福岡大会で印象的だったのは会場中に響き渡る子どもたちの明るく元気な声だった。点数を取る度にコート内を駆け回り、ミスをしてもお互いに励まし合う。
高学年の子どもが後輩にやさしく声がけする姿も度々見かけられた。試合に出られない選手も出ている選手にドリンクを渡すなど、自分ができることを探して行動に移す。ときにはチームの垣根を越えて応援する光景もあった。
監督やコーチもサーブやスパイクが決まると立ち上がり、子どもたちとハイタッチして盛り上がる。ミスをしても怒るような場面はほとんど見られず、適切なアドバイスを送っていた。参加者全員が心の底からバレーボールを楽しんでいた。
社会貢献活動に取り組むHEROsアスリートからは今回、元ソフトボール選手の髙山樹里さん、元飛込選手の馬淵優佳さん、元バレーボール選手の佐藤美弥さん、元競泳選手の竹村幸さんと吉田冬優さん、元パラ水泳選手の久保大樹さん、パラ柔道の小川和紗選手が参加。
今回初めて参加した馬淵さんはその熱気に圧倒され、子どもたちが自ら考えて挑戦する姿に感銘を受けていた。
「レクリエーションのチーム対抗リレーでどうすれば速く走れるのか子どもたち自ら意見を出し合って真剣に考えていたんです。誰かに指示されたから何かをするというわけではなく、そうやって自分たちで考えて楽しんでいる姿を見て、スポーツの現場とはこうあるべきだなと、あらためて感じました」
子どもたちの主体性を重視
今回が5度目の参加になる佐藤美弥さんは、子どもたちの主体性を重視する大会の主旨に大きな可能性を感じていた。
「私自身も大人になって主体性よりも外的要因でプレーしてしまっていたなと思うのですが、今、日本のトップリーグでプレーしている選手でも、自分で考えて何かに取り組むのが苦手な選手が多いと感じます。子どもの頃は監督から指示されたことを実行すればある程度の時期までは結果が出ますが、一定の時期になると自分で考えて行動することが必要になります。だからこそ、子どもの時期に自由な発想で、全力で取り組むことが大事だなと感じました」