フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「ユマの演技は正統派」振付師がプログラムに込めた願い…鍵山優真のスケートはなぜ特別なのか? GPファイナルで証明した“マリニンとの距離”
posted2024/12/19 11:02
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
AFLO
12月6日、フランスのグルノーブルで開催されたGPファイナル男子SP。鍵山優真の「サウンド・オブ・サイレンス」のメロディが始まった。サイモン&ガーファンクルによるこの名曲を、クラシック・ギタリストのミロシュ・カラダグリッチが演奏する、清涼な音色である。鍵山はステップとターンだけで、静かに加速していった。今季取材したGP大会3試合目だが、ニューヨーク在住の筆者がこのプログラムを生で見るのはこのGPファイナルが初めてだった。最初のジャンプ、4サルコウへの滑走を始める鍵山の滑りを見て、はっとひらめくものがあり、演技直後に振付師のローリー・ニコルに連絡をとった。
振付師が「サウンド・オブ・サイレンス」に込めた願い
この「サウンド・オブ・サイレンス」は、氷を削る音がほとんどしない鍵山のスケーティングの質の高さを強調するために選んだ音楽ではないのだろうか?
「その通りなんです」
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すぐに戻ってきたニコルの返答で、ちょっと瞳をキラキラさせながら満足げにうなずく彼女の笑顔が目に浮かんだ。このエッジの音ばかりは、映像ではよくわからない。氷上近くで生で見ることで初めて、鍵山のスケーティングの静寂さが、デリケートなギターの音と調和して独自の雰囲気を醸し出していることに気づいたのだ。
「私はこの『サウンド・オブ・サイレンス』を、ユマがマスターしたエッジワークの質の高さ、他のパフォーマンス・アートにはない、スケーティング技術そのものの質の高さを人々がはっきり認識できることを願って、選んだんです」
滑走中にあまり氷を削る音がすると、スケーティングのあらが強調される。そのため振付師は、意図的にその音をカバーする音楽を選ぶこともある。だがローリー・ニコルは鍵山という稀有なスケーターのために、あえてこのボーカルの入らないバージョンの「サウンド・オブ・サイレンス」を選択した。