NumberPREMIER ExBACK NUMBER

「神騎乗? 僕のレースにはないですね」川田将雅が“当たり前”を繰り返すワケ「勝つことが彼女(リバティアイランド)の仕事で、導くのが僕の仕事」

posted2024/10/27 11:03

 
「神騎乗? 僕のレースにはないですね」川田将雅が“当たり前”を繰り返すワケ「勝つことが彼女(リバティアイランド)の仕事で、導くのが僕の仕事」<Number Web> photograph by Wataru Sato

JRA最高勝率騎手を7度受賞する川田将雅

text by

島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

PROFILE

photograph by

Wataru Sato

 華麗な勝利レースの数々は傍から見れば“神騎乗”というべきものばかり。だが、当の本人はあっさりと否定する。リーディングジョッキーとなってもベストレースは「思いつかない」というが、理路整然と話す言葉の端々には、あまりにも緻密で正確無比な勝利への極意が表れていた。
 発売中のNumber1107号「神騎乗伝説」に掲載の[トップ騎手インタビュー]「川田将雅は当たり前を繰り返す」より、内容を一部抜粋してお届けします。

「神騎乗」はひとつもない?

「テーマが『神騎乗』と聞いて、取材をお断りしようかと思っていました」と、川田将雅は微笑む。冗談めかした口調ではあるが、本当に、自分はこの企画に適していないと思っているようだ。

「世間のみなさんの印象に残っている僕の『神騎乗』というのはひとつもないと思います。みなさんが『神騎乗』と仰るのは、見るからに派手なレースだと思うのですが、僕の場合、派手なレースはほぼない。僕が勝ったレースで派手だったのは、馬の能力が圧倒的だったときだけですから」
 

 派手なレースが少ないのはなぜなのか。

「僕は緻密だからだと思います。レースのなかで用意周到にいろいろなことをやって、一般の方にはわかりやすくない組み立てをしてますので」

 そう話す彼に以前、自身のベストレースはどれかと問うと、「思いつかないです」と即答した。一生懸命走っている馬を勝たせるのが自分の仕事で、自分が勝たせたとは考えないからだという。勝ったのは自分ではなく馬なのだ、と。だから彼はガッツポーズをしない。自分に“神騎乗”はないと本心から思っているのだ。

「いわゆる『神騎乗』に当てはまるレースは、GIよりむしろ普段の条件戦に多くあります。ジョッキー目線で、『あの人上手く乗ったなあ』とか『よくここからこの競馬を組み立てたな』と思うことも。でも、僕のレースにはないですね。当たり前のことをしているだけですから」

勝つことが彼女の仕事で、そこに導くのが僕の仕事

 本人はそう言うが、第三者から見た「川田将雅の神騎乗」はいくらでもある。

 新しい順に見ていくと、まずは昨年、リバティアイランドで勝った桜花賞。単勝1.6倍の圧倒的1番人気の同馬は道中後方を進み、3、4コーナー中間の勝負所でも先頭から10馬身以上離されていた。管理調教師の中内田充正が「ヒヤヒヤを通り越して、心臓が止まっていました」と振り返るほど絶望的に見えた。それでも川田は慌てることなく同馬を馬群の外に誘導し、直線で前をまとめて差し切った。

「これは先ほどお話しした、馬の能力が圧倒的だったレースのひとつです。許されている未来が勝つことだけで、負けていい馬ではない。勝つことが彼女の仕事で、そこに導くのが僕の仕事だということです」

 とはいえ、あれだけ大きく離されて、焦ったり、ドキドキした局面はなかったのか。

【次ページ】 スターズオンアースで制した一昨年の桜花賞

1 2 NEXT
#川田将雅
#リバティアイランド
#スターズオンアース

競馬の前後の記事

ページトップ