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「復帰を決めた恩師からのLINE」引退も考えた樋口新葉が明かす…かつて“天才少女”と呼ばれた23歳のGPシリーズ初優勝「成長を感じました」
posted2024/10/25 17:35
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
AFLO
GP開幕戦、スケートアメリカが10月18日からテキサス州アレンで開催。女子は23歳の樋口新葉がGP大会初優勝をきめた。2016年にシニアGPデビューをしてから、本大会は樋口にとって14戦目のGP大会となる。
「この大会では全然優勝なんて狙ってなくて、とにかく3位までには入れるようにというのが目標だったので、それより上は全然狙ってなくて。まさかという感じでした」と樋口は喜びを語った。
中学2年で全日本選手権3位に入り、天才少女と注目された。15歳でシニアの国際大会に参戦し、2018年世界選手権で銀メダル、2022年北京オリンピックでは団体戦の日本チーム銀メダルに貢献し、個人戦で4位入賞という成績をあげてきた。それなのに、GP大会では銀を2回、銅を3回手にしたがタイトルには縁がなかった。その理由を、本人はこう振り返る。
「GPファイナルに出ることがすごく大事」
「最初のシーズンは絶対優勝したいという強い気持ちで戦っていけたと思うんですけど……」と語りながら言葉を探す。
「GPシリーズはファイナルに出ることがすごく大事。ファイナルに行くために、いかに自分の力を出し切らずにファイナルまでもっていけるかみたいなことを考え始めたとき、とりあえず1番とかじゃなくてファイナルにもっていくためにというふうに考えていたので……」
2カ月の間にGP大会2試合、進出すればGPファイナル、そして日本の選手はその2週間後に全日本選手権が控えている。その過酷なスケジュールをこなすため、体力の配分を考えて各試合で全力を出し切ることにためらいを感じていたのだという。
それが23歳になった今、なぜ実現できたのか。
「今回の試合に向けてというか、今シーズンの目標としてショートもフリーも続けて、最初から最後まで余裕をもって滑れるように心がけてきたので……それが今回の試合の、失敗もあった中で最後まで滑り切れたということが一つと、あとは運が70%くらいかなと思います」
大喝采をあびたステップシークエンス
SPは4位スタートだった。フリーでは予定していた3ルッツ+3トウループが3+2になり、シークエンスにするはずだった2度目の3ルッツの着氷が乱れた。だがその後しっかりリカバリーをし、最大の見せ場は後半のケイト・ブッシュの「神秘の丘」のメロディに合わせたステップシークエンスだった。ジュニアの頃から定評のあったスピードのあるスケーティングを生かし、体全体を大きく使った滑りは美しく、迫力があり、観客からも喝采を浴びた。