濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「取材陣にこんな笑顔を…」リーグ戦優勝のスターダム・舞華、ハイテンションの理由は…「SNSもしんどい」感情を押し殺した王者時代からの激変
posted2024/09/14 11:04
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Essei Hara
闘ってきたのは、目の前の対戦相手だけではなかった。
スターダム恒例のシングルリーグ戦「5★STAR GP」で優勝を果たした舞華は、7月に団体最高峰である“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダムを失ったばかりだった。それでもリーグ公式戦6試合すべてに勝って失点0、決勝トーナメントでは準決勝で“スターダムのアイコン”岩谷麻優を下している。全勝優勝は史上初の快挙だった。
大型のパワーファイターで勝ちっぷりも豪快。完勝、快勝の山を築いての優勝に見えた。実業団まで柔道に打ち込んだバックボーンもある。しかし内面はむしろ繊細と言っていい。恵まれた能力があるからこそなのか、自己主張をして当たり前のプロレスラーたちの中で「自分は譲りがちなところがあるんです」と話してくれたことがある。
昨年は準優勝。気持ちとしては“決勝進出”ではなく“決勝で敗北”だった。試合後には大号泣し、しばらくスランプに。大事なところで勝ちきれないというイメージも、やはり能力が高いからこそか。
それでも昨年12月、リーグ戦決勝で敗れた鈴季すずにリベンジを果たし、ワールド王座初戴冠。ただこれも曰く付きではあった。チャンピオンの中野たむがケガで長期欠場、返上されたベルトをめぐっての王座決定戦だったのだ。
舞華が“感情を押し殺した”理由
「舞華には、チャンピオンに勝ってベルトを巻くという経験をさせてあげられなかった」
たむはそう振り返っている。一方、舞華は「重圧が凄くて、試合しながら息が詰まるような時もありました」と言う。
舞華が赤いベルトを巻いた時、スターダムは揺れていた。ファンに対して誠実さを欠いた不祥事がきっかけとなり、12月から社長が交代。団体への不満と不信があちこちから吹き出していた。舞華がチャンピオンになった両国国技館大会では、ネットPPV生配信が大会中に途切れるというトラブルも。これは結果としてスターダムのミスではなかったのだが、舞華はチャンピオン=選手の代表として記者会見で強く抗議した。
「選手は命がけで闘って、ファンも命がけで応援している。会社も命がけでやってください!」
今年2月、初防衛に成功した直後には団体創設者のロッシー小川氏が契約解除になっている。本人にも選手たちにも、その場で言い渡されたことだった。舞華はリング上で大会のエンディングを仕切り、会場にいる全選手と小川氏を呼び込んで記念撮影を行っていた。そのことで舞華は「契約解除を事前に知っていたのではないか」とファンから疑われることになった。
「記念撮影をしたのは、団体設立13周年の記念大会だったから。それ以上の意味はなかった。小川さんのことも知らなかったので。でも、そう思ってくれないファンもいる。といって、変に言い訳したり説明することもできなくて。まして弱音なんか絶対に言えない。それが苦しかったです」
喜怒哀楽すべてを表現するはずのプロレスラーが、感情を押し殺していた。「みんなを安心させるため」だ。春にはジュリアら主力も含む選手たちの退団、新団体旗揚げもあった。
「当時は試合に勝つとか輝くということ以外も気にしなければいけなくて。タイトルマッチも挑戦者だけ見ていればいいわけじゃなかった。いろんなものと闘っている感じで、SNSを更新するのもしんどい時期がありましたね」