濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「取材陣にこんな笑顔を…」リーグ戦優勝のスターダム・舞華、ハイテンションの理由は…「SNSもしんどい」感情を押し殺した王者時代からの激変
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2024/09/14 11:04
5★STAR GPで優勝を果たし、笑顔でトロフィーを掲げる舞華
“丸腰”で迎えたリーグ戦
王座陥落は7月の札幌大会。セコンドについた同期・上谷沙弥の裏切りから刀羅ナツコに敗れた。今年からスタートした新ユニットのメンバーと6人タッグのチャンピオンになったが、それも失ってしまう。8月10日のリーグ戦開幕は“丸腰”で迎えることになった。
「自分に残っていたのは、仲間たちと応援してくれるファンだけ」
しかしそれ以上に心強い味方はいなかった。舞華は順調に勝ち点を重ねていく。昨年の「トラウマ」を思い出すのは、むしろ試合がない日だった。
「リーグ戦で負けた選手が悔しさで泣いたりしている。その姿を見て去年の気持ちが蘇りそうになりました」
リーグ戦開幕直前、パリ五輪で柔道の阿部詩が敗れ、大泣きする姿も見た。
「とてつもない重圧だったと思います。連覇するだけじゃなくきょうだいでの金メダルも期待されていて。泣いている姿には去年の5★STARでの自分を思い出しました」
負けることへの恐怖、自分の弱さを克服できたのは、リングの上で楽しむことを思い出したからだった。
「トラウマがあっても、今年はマジで楽しみました、プロレスを。ベルトがなくなって、髪もバッサリ切って、私の中ではゼロからのスタート。(優勝は)誰よりも熱く、楽しく、イキイキと清々しくやれた結果かなと」
マスコミの前でこれだけ笑顔を見せたのは…
リーグ戦開幕に合わせて髪をショートにし、コスチュームも変えた。ロングタイツにブーツタイプの編み上げ式リングシューズ。赤のロングタイツには「赤いベルトを取り戻す」という気持ちを込めた。炎をモチーフにしたデザインは「メラメラと燃える気持ち」を表したものだ。
「着るたびに“楽しもう”という気持ちにさせてくれたコスチュームです。私の中で“ザ・プロレスラー”なイメージ。動きやすいのもありますけど、とにかくプロレスをやろうと」
難しいことは考えない。考えすぎるとトラウマが、過去の重圧が蘇る。そうではなく無心に“プロレス”に打ち込んだ。舞華が考える“ザ・プロレスラー”とはどんな存在なのか、あらためて聞いてみた。
「明るくて楽しくて、みんなに勇気を与えるような存在です」
言われてみると、優勝後のマイクはいつになくハイテンションだった。自らを“女帝”と称しキャリア以上の風格を感じさせた時期も魅力的だったが、今はいい意味の“軽さ”がある。決勝戦で因縁の上谷を下した後のインタビューでも、とにかくよく笑っていた。全勝優勝の心境について聞かれると、こう答える。
「凄くない?(笑)。いやふざけてるわけじゃないんですけど」
マスコミの前でこれだけ笑顔を見せたのは、もしかしたら初めてだったかもしれない。開幕戦から決勝まで、余裕があったわけではないという。常に崖っぷちの気持ちで、それがよかった。リーグ戦の山場、最も厳しかったのはどの試合かを聞かれた舞華は「うーん、今日かな」とまた笑う。