熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
「無残な負け。もうダメ」なでしこ谷川萌々子30m弾にガク然も…銀メダルで“手のひら返し”ブラジル女子サッカー暗黒史「約40年も禁止令が」
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byMutsu Kawamori
posted2024/08/14 11:01
パリ五輪女子サッカーで銀メダルを獲得したブラジルのマルタ。なでしこジャパンに衝撃的な逆転負けを喫した際には批判を受けたようだが……。
ブラジルは「フットボール王国」と呼ばれ、ブラジル人たちは自国のことを「フットボールの国」と称する。しかし、厳密に言えば、いずれも「男子の」という注釈が付く。
19世紀後半にイングランドから渡来したこのスポーツは、すぐにこの国の男たちを魅了した。彼らはイングランド人が夢想だにしなかった手の込んだフェイントや多彩なキックを発明して「フットボールの育ての親」となった。20世紀前半、全国各地で州選手権が始まって人気を博し、1930年にウルグアイで開催された第1回W杯に出場。以後も欠かさず出場している世界で唯一の国であり、世界最多の5度の優勝を誇る。
「ボールを蹴る女性は真っ当ではない」
これに対して、この国の女子フットボールは男子とは対照的な、いわば暗黒の歴史を辿ってきた。
男たちの間でフットボール熱が沸騰したことから、人々の間に「フットボールは男のスポーツ」というイメージが染みついた。
また、ブラジルはカトリック国であり、人々は情熱的で自由奔放な反面、保守的な側面がある。たとえば、同性愛をタブー視する傾向が強い。
知人のブラジル人記者は「伝統的に、ブラジルでは『ボールを蹴るような女性は真っ当ではない』という考え方が根強くあった。この影響で、女性の間でフットボールの人気が高まらず、競技人口も増えなかった」と解説する。
世界で女子のフットボールが盛んなのは、アメリカ、ドイツ、スウェーデンなどプロテスタントの国が多い。カトリック国では、アルゼンチン、イタリア、ウルグアイ、メキシコなど男子代表が強い国でも女子代表は成績が振るわない(例外は、フランスとスペインくらいか)。
約40年も「女性にとって不適切なスポーツ」
のみならず、ブラジルでは特異な出来事があった。
1940年、当時の大統領(右派のジェトゥリオ・バルガス)が「暴力的な色合いが濃く、良き母親となるべき女性には不適切なスポーツ」として女性がフットボールをすることを禁じる法令を出した。
驚くべきことに――この法令が解かれたのは、1979年だった。