甲子園の風BACK NUMBER
《大谷翔平世代のいま》大阪桐蔭春夏連覇の元主将が起業家に…引退後も「毎朝ワクワク」できているワケ「選手として勝ち目はないですが」
text by
間淳Jun Aida
photograph byJIJI PRESS
posted2024/06/23 17:00
大阪桐蔭高校時代の水本弦。今は何に取り組んでいるのだろうか
「仕事をしながら転職先を探している人は夜にならないと時間をつくれないので、午後9時半頃から面談する日もあります。時間が足りないと感じることは多いですが、毎日充実感があります」
最近は土日に小学校低学年を対象にしたレッスンも始めたほか、小・中学生の指導を通じて感じた課題を解決するバットの開発と販売を新たな事業としてスタートした。選手の頃と関わり方は変わったものの、水本の生活に野球は欠かせない。
京田、木浪が活躍すると嬉しくて連絡します
6月10日には、現役を引退してからずっと胸に抱いてきた思いを形にした。
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生まれ育った石川県野々市市にある小学校5校にバットとグラブを寄贈した。地元に帰って小学生の野球チームを見ると、選手の数は自身が子どもの頃と比べて明らかに減っている。野球が敬遠される理由の1つに、決して安くはない野球用具の金銭的負担があると知った。
「今の自分があるのは野球との出会いや、野球をする環境を整えてくれた周りの方々のおかげです。まだ会社として十分な収益を出せているとは言えませんが、地元に恩返しがしたいと思っていました。今後も継続して、野球界に貢献していきたいと考えています」
水本はプロ野球選手を目指していた時期もあった。目標をかなえられずに現役を退くと、野球から距離を取る人は少なくない。ところが、水本は積極的に野球に携わり、かつて一緒にプレーした仲間を純粋に応援している。中学時代のチームメート京田陽太(現DeNA)や大学の同級生だった木浪聖也(現阪神)ら、今もプロや社会人で野球を続けている選手に敬意を表している。
「京田や木浪の活躍を見るとうれしくて連絡しています。今も現役を続けている同世代は、野球への情熱や向上心が並外れていると感じています。上のカテゴリーにいくほど、怪我や不調で苦しい経験が増えるはずですから。尊敬の気持ちしかないですね」
嫉妬や劣等感ではなく、ライバル心
水本に嫉妬や劣等感はない。抱いているのはライバル心。言葉が熱を帯びる。
「野球選手として勝ち目はありませんが、野球界への貢献度や影響力なら、まだまだ自分にも可能性があります。プロ野球選手とは違った方向から野球界に良い影響力をもたらしたいと考えています。『まだ、水本は生きている』と思ってもらえる活動をしていくつもりです」
目標や希望があるから、毎朝ワクワクして目覚められる。ユニホームを着ていなくても野球と深く関わる方法はある。
水本は現在、将来の野球界を背負う子どもたちも、野球中心の生活から次のステージに進もうとしている学生や社会人もサポートしている。子どもたちに対しては、このように思いを込める。