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卓球PRESSBACK NUMBER
「あぁ、この子は本気なんだ」“キティ屋さん”になりたかった平野美宇の夢がオリンピックに変わった日…母・真理子さんが感じた「娘の覚悟」
text by
高樹ミナMina Takagi
photograph byL)本人提供、R)Shigeki Yamamoto
posted2024/06/14 11:02
母として、卓球日本代表の娘・平野美宇を支えてきた真理子さんに子育て論を聞いた
本気で応援するのなら、親も覚悟が必要
――福原愛さん以来12年ぶりの快挙でしたね。応援というのは具体的に?
例えば美宇が「次の試合は勝って優勝したい」と言いますよね。それが幼稚園児だとしても子ども扱いせず、「本気でそう思うのなら、幼稚園に行く前にママと一緒に朝練しよう」とか「幼稚園から帰ってきたら卓球スクールの一斉練習の前にママと30分練習しよう」と思いを叶えるための具体策を提案しました。もちろん強制じゃありません。「勝てなくてもいいなら、やらなくてもいいよ。勝ちたいならこれくらいは必要だと思うけど、どうしたい?」と伝えるんです。すると、子どもは本気ならやる方を選ぶんですよ。もちろんそうじゃない子もいると思いますけど、美宇はやる方を選びました。そうこうしているうちに、あの子の卓球に費やす時間が増えて集中力もどんどん高まって。それは美宇に「勝ちたい」という強い気持ちがあって、それを私が後押しするということの繰り返しが生んだ相乗効果だったなと思います。
――親もかなりの時間と労力を割くことになりますね。
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子どもの夢を本気で応援するのなら、親も覚悟が必要だと思います。子どもの力だけでは夢を実現するのは難しいかな。子どもの夢を叶えるための環境を整えることが親の役目だと考えています。ただ、親が一生懸命になればなるほど周囲と温度差ができて、身内にも身内以外からも「そこまでやらなくても」みたいに言われるようになりがちです。私にも覚えがあります。
元卓球選手の夫だからこそ、娘を心配した
――美宇さんのお父さんの光正さんは学生時代、全日本選手権に出場した卓球選手ですから理解がありそうですが。
夫は小学生の頃から卓球をやっていて、本当は卓球で生計を立てていきたかった人なんです。でも叶わなかった。だから、一流選手になれる人はほんの一握りだということを身をもって体験していて、娘がそういう道に進むことが心配だったのでしょう。私に対して「そういう道は大変だぞ。お前は美宇をどうする気だ」という感じでしたね。
――光正さんは山梨から上京し、美宇さんと同居をして競技活動を支えておられます。
中学1年生で入ったJOCエリートアカデミーを1年早く修了し、高校3年生でプロとして東京オリンピック代表を目指すことになった時、夫が山梨の職場を辞めて美宇を支える役目を買って出てくれました。夫はかつての自分自身と娘を重ねたのかもしれません。夫は、今しか出来ないことや夢を追いかける素晴らしさも大変さも痛いほど味わってきました。同時に、たとえその夢が道半ばで途絶えたとしても、次の“夢パート2”に向かって人生を再スタート出来ることも知っています。自分がそうだったから。だから、美宇の本気度もあって、積極的に娘を応援しようという気持ちに変わったのだと思います。その頃、私に「美宇がここまで来られたのは、まりちゃんのおかげだよ」と労いの言葉をかけてくれて、ものすごく嬉しかったです。