ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
「もう野球を辞めようかと」オリックス戦力外、中川颯にかかってきた1本の電話…オープン戦8回無失点、“ハマのサブマリン”が誕生するまで
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2024/03/11 11:01
今季の対外試合で11イニング無失点を記録するなどアピールを続ける中川颯。昨年、オリックスを自由契約になった中川はなぜDeNAの一員となったのか
「“臨機応変なピッチャー”になることが理想です。環境や相手バッターに左右されるのではなく、自分が適宜対応していく柔軟性のあるピッチャーになりたいですね」
タイミングやボールの出どころ、そして駆け引き。さらに地面からフッと這い上がってくる独特な軌道。中央大学時代に中川と対戦経験のある同学年の牧秀悟は、その球筋について感嘆しながら次のように証言する。
「何度も対戦しているんですけど、打てたためしがなかった。とにかくあの軌道が本当に打ちづらいんですよ。これからシーズンが始まりますけど、対戦相手も苦戦すると思いますね」
牧ほどのバッターが唸る、魅惑のピッチング。ここまでオープン戦では2試合マウンドに立ち、いずれの登板も4イニングを投げ、被安打2、無失点と結果を残している。中川は「一軍で投げられるのであれば先発、中継ぎどちらでも構いません」と言うが、首脳陣の起用傾向を見るかぎり先発の可能性が高そうだ。
27球で終わらすイメージ
懸念があるとすれば体力面だろう。中川はプロ入りしてからリリーフでしか登板しておらず、果たして長いイニングを稼ぐことに不安はないのだろうか。そう問うと、中川は考える間もなく、すぐさま自分の考えを口にした。
「僕としてはバッターが自分のスタイルに慣れてしまうのが一番怖いので、若いカウントで打たせることをテーマに取り組んでいます。中継ぎであれば全部三振を取るぐらいの気持ちなんですけど、先発ならばなるべく球数が少ない方がいい。以前、同じアンダースローの牧田和久さん(現・ソフトバンクコーチ)が『1試合27個三振を取るのではなく、27球で終わらすイメージ』とおっしゃっていて、その感覚でピッチングができれば、長いイニングでも投げることができると思います」
コントロールもよく、緩急自在にゾーン内で勝負できる術もある。そのピッチングスタイルから消耗が激しいとおぼしきアンダースローではあるが、さらに心技体を練り上げることができれば、十分勝負できるはずだ。過去3年間で一軍登板が一度しかない投手に対して過度の期待は禁物だが、その冷静で利発な考えや表情を見ていると、やってくれるのではないかと思ってしまう。
キャンプ中に同級生会
新たな環境、憧れのチーム。中川がDeNAに入団して心強かったのは、前出の牧や石川のように同学年の選手が多かったことだ。他にも山本祐大、入江大生、知野直人、京山将弥、育成では村川凪、堀岡隼人らがいる。