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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「いわゆる天才ですね」監督も脱帽…箱根駅伝《優勝候補筆頭》だった駒澤大イチの“逸材ランナー”はなぜ最後の箱根路を走れなかった?
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byAFLO
posted2024/02/17 11:05
3月で駒大を卒業する唐澤拓海。1万m27分台の記録を持ち周囲からは「天才」との呼び声も高いランナーだが、大学生活は紆余曲折があったという
そういうところがダメなんでしょうね、と唐澤は苦笑する。
「感情が2年ぐらい遅れてくるんですよ。いまになってようやく悔しいというか」
「箱根は人をダメにするかもしれない」
2年生までは順調な成長曲線を描いていた。ところが、3年目になると落とし穴が待っていた。春先に左膝を痛め、さらにアキレス腱も故障する。長期の離脱は1年近くに及んだ。
「もう色んなところを痛めすぎて、朝起きてから寝るまで痛いんですよ。多分、10カ月くらい走れなかったんじゃないですか。メンタル的にも落ちて、イヤイヤやっているうちに陸上が嫌いになってしまった。朝早くから起きて走るとか、意味があるのかなって。『なんだこれ』って思ってました」
何のために走るのか――。根源的な問いかけに、答えを見つけるのは難しい。唐澤が自嘲気味につぶやく。
「多分、それって箱根を走ったからだと思うんです。それを1つの目標にして走っていて、それが叶った瞬間に、次の目標を見失った。普通の人は『区間2位だから今度は区間賞を取ろう』となると思うんですけど、僕の場合は1年も先だと気持ちがそこに向かないんです。言い方を変えると、箱根は人をダメにするかもしれないです」
ケガを切っ掛けに心が折れ、5月から9月までの約4カ月間を実家で過ごした。
外に出たのは、散歩をするときのみ。親友には悩みを打ち明けたと言うが、チームメイトには「声を大にして言うことではない」とあえて口をつぐんだ。両親もキツイ言い方はせずに見守ってくれたという。
立ち直る切っ掛けはどこにあったのか。
「見返したいって言うのはあったと思います。箱根で優勝したチームが日テレの『ZIP!』とかに出ていて、チヤホヤされているのが気に食わないなって。そういう意味では燃費が良いんですよ。ほとんど劣等感で動いているので、焚きつけるものさえ見つかればすぐに燃えます(笑)」
やや自己肯定感が低いようにも思えるが、お笑い芸人の若林正恭が好きと聞いて納得する。劣等感や自虐を抱え、その不満を糧とする。安易に世論と迎合しないのは、彼の強さとも言えるだろう。
再び箱根駅伝を目標に定めると、唐澤の走りは加速した。
<後編につづく>