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「伊東はこの街のスターなんだ」伊東純也は“シャンパンとフットボールの街”ランスで愛されていたのか?「うん、ナイスガイだったな」
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/02/03 17:00
アジアカップ開催中に性加害疑惑が報じられた伊東純也。2月2日に日本代表チームからの離脱が発表された。昨年12月に所属チームのフランス「スタッド・ランス」にてNumberが現地取材し、伊東の評価を聞いていた
空に浮かぶドローンの回転音が響く。スタッフの撮影に、選手たちは笑って応えている。選手やコーチは、こちらを見るとにこやかに挨拶をしてくれる。流れるのはビッグクラブにはない和やかな空気だ。
十分に着込んだ伊東がやってきて、中村敬斗が続いた。試合前日のメニューに、監督の言う独自の調整はみられない。限定されたエリアでの10対10のゲームでは、軽快なタッチでボールを散らしていった。
「イト!」
イトウでもジュンヤでもない。ピッチの四方で、日本人を呼ぶ声が響いた。
キリアンという名の18歳と話をした。練習後の巻き髪は濡れていて、顔にはあどけなさも残る。地元出身で子供の頃からランスを応援してきた彼は嬉しそうに言う。
「トップチームで練習することもあるんだ。伊東とも練習で対峙した。近くでやったときは、あの速さと技巧に驚いたな」
ポジションはセンターバックで、サイドバックもこなす。伊東のプレーを近くで体感できるわけだ。
「彼はランス最高の選手だ。僕みたいな若手が、あんなトップクラスの選手と一緒にできるなんて信じられないことだよ」
クラブが期待をかける若手だという。キリアン・プロシェの名がゴール裏で叫ばれる日もそう遠くないかもしれない。
伊東はこのチームの、この街のスターなんだ
伊東は特別な選手――。'17年まで主将を務めたアントニー・ウェバーも似たようなことを口にした。キリアンの師でもある彼は、U19チームの監督を務めている。
「伊東はこのチームの、この街のスターなんだ。相手に仕掛け1、2歩で抜き去るあのドリブルで、チームの中心になった」
リーグ・アンでプレーした彼は多くの名アタッカーと対峙してきた。
「伊東は速さと技術を兼ね備えたリーグ有数のウイングだ。心配なのは相手がついていけずファウルで怪我をするリスクだ。私自身、もっと続けたかったが膝の怪我で引退せざるを得なかった。彼には私のようになってほしくない。伊東は大切な選手で、チームを引っ張ってくれる存在だから」
アントニーの横を若手たちが通り過ぎていく。教え子を見つめる目は世界共通だ。かつての主将は途絶えてしまった自らの夢を若き次世代に託している。
夕暮れの街はノエルに染まっていた。
ノートルダム大聖堂に明かりが灯る。歴代のフランス国王の戴冠式が行われていた荘厳な建築物は街のシンボルだ。ぼんやりと輝く聖堂の周りを厚いコートを羽織った人々が足早に通り過ぎる。広場ではきらきらとした観覧車がゆっくりと光の円を描いていた。
「伊東が店にきたときも…うん、ナイスガイだったな」
シャンパンの街にはシャンパン専用の菓子もある。大聖堂から通りを進めば、銘菓ビスキュイ・ロゼの店『フォシエ』が見えてくる。王室御用達で、王妃マリー・アントワネットも食したという。店内はこちらまで染まりそうな鮮やかさだ。色とりどりの菓子箱たちは、親族が集う暮れのひとときを彩るのだろう。桜色のかけらを口に入れると、どこか懐かしさを感じる素朴な甘さが広がった。
選手世話係のミゲルが教えてくれたブラッスリー『ゴロワ』へ向かう。