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「やっぱり忘れられへんのよね」人気女子レスラー・安納サオリはなぜ“スターダムの白いベルト”にこだわるのか?「今も悔しさや後悔が…」
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2023/12/27 17:00
12月29日にMIRAIが持つ白いベルト(ワンダー・オブ・スターダム王座)に挑む安納サオリ。人気女子レスラーが激動の1年を振り返った
「ウチらアホやな。どんだけお互いに負けたくないねん。ほんまにアホやわ。どうする? このまま、これからも対立していく? この関係続ける? 今日も勝ったよ、私。でもさ、まだ完璧になつみに勝ててると思えへんのよな。きっとこれはプロレスラーである限り、ずっと思う感情なんやと思う。私はなつみになれへん。なつみも私になれへん。でも、それがいいんかもな」
揺れるスターダム、大阪の大会場は閑古鳥が鳴き…
7月23日、大田区総合体育館。『5★STAR GP』の開幕戦で安納はジュリアと場外戦も含んだ悲壮感漂う流血試合で引き分けて、その存在感を示した。
安納には静かな勢いが感じられた。静かな輝きの方が気高く見える時がある。安納はなつぽいとタッグを結成し、8月13日の大阪大会でゴッデス王座(タッグ王座)を獲得した。
「ウチらはベルト取る運命やった。うれしい。素直にうれしい。私はこのベルトを巻いてさらに輝くから」
ゴッデス王座はパートナーのなつぽいのケガによって11月に返上となってしまったが、「また取ればいい」と互いにうなずき合った。
6人タッグ、タッグとスターダムのベルトを巻いてきた安納だが、その後は“シングルのベルトの重み”を感じることになる。
話は前後するが、9月9日の後楽園ホール。リング上には『5★STAR GP』のリーグ戦でMIRAIに勝利し、MIRAIの持つ白いベルト(ワンダー・オブ・スターダム王座)に手を伸ばし、いとおしそうに撫でる安納がいた。
そして安納の願い通り、11月18日には大阪府立体育会館でMIRAIの持つ白いベルトに挑戦するチャンスが訪れた。
前々日の道頓堀のグリコの看板前での記者会見はリング・コスチュームでは肌寒かったが、これも新鮮な初体験だった。
この大阪大会は中野たむの負傷によって当初スケジュールされていた王者・中野に鈴季が挑む赤いベルト戦は中止となり、代わりにゲーム的なマネーボール争奪戦がメインイベントになった。
安納がMIRAIの白いベルトに挑んだ試合は予定通りのセミファイナルだったが、本当のメインが消えた中で、それは特別な重荷を背負ったものになってしまった。
この時、運営の問題などで大きく揺れ動いていたスターダムは大会場に約1000人しか観客を集めることができなかった。リングサイドのイスも少なく、2階席には閑古鳥が鳴いていた。
王者のMIRAIは大阪府立体育会館の客席に目をやると、「厳しいお客さんの数」と現実を口にした。