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「1対1の勝負で命を取り合う時は…」永瀬拓矢が藤井聡太との“真剣勝負”直後に明かした“人の心を鷲づかみにする”《本音の肉声130分》
posted2023/11/27 17:00
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by
Shiro Miyake
発売中のNumber1085号掲載の[王座戦直後の肉声130分]永瀬拓矢「失冠の痛みはあまりない」より内容を一部抜粋してお届けします。【記事全文はNumberPREMIERにてお読みいただけます】
王座を失った永瀬拓矢への拍手
将棋に関する忘れられない音の記憶がある。
一つは2017年6月26日、藤井聡太がデビュー以来29連勝の新記録を達成した時のことだ。18畳ほどの東京・将棋会館「特別対局室」には約150人の報道陣が詰めかけており、わずか14歳で棋界の歴史を動かした少年の表情を捉えようと殺気立っていた。スチールカメラのシャッター音は途切れることがなく、寄せては返す波のように対局室に響いた。その音は今でも耳に残っている。
二つ目は2023年10月11日、21歳の藤井聡太が八冠全制覇を成し遂げた王座戦第4局の大盤解説会だ。終局後、両対局者は約7倍の抽選を潜り抜けた180人のファンの前に登場した。まず勝者の藤井が感想を述べ、次に王座を失ったばかりの永瀬拓矢がマイクを握った。
「もう一局指したかったですが、ゼロから勉強して頑張りたい」と話すと、会場から熱い拍手が沸き上がった。2人が壇上から降りようとしても、皆が手を叩くのを止めない。いま、偉業を達成したばかりの藤井に送られた拍手よりも大きかった。藤井ファンの方が多かったはずの会場で、全員が永瀬の死力を尽くしたパフォーマンスに心を動かされていた。最終盤で詰みを逃した衝撃の結末。誰もが永瀬の勝利を疑っていなかった第3局に続くドラマチックな逆転劇で、最強の藤井がここまで追い込まれたのは18回のタイトル戦で初めてだ。感想戦、そして藤井の記者会見を終えた後も、永瀬への拍手は私の脳裏に響き続けていた。
なぜ、人の心を鷲づかみにするフレーズを吐けるのか
日付が変わった10月12日午前0時48分、私は永瀬に電話をかけた。2コールもしないうちに永瀬は「もしもし」と電話に出た。落ち着いた声色を聞いて、拍手の残響はすっと止んだ。今から敗者に心境を尋ねるのだ――。