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[竜王戦2勝の価値]広瀬章人「幻となったフルセット」
posted2023/11/27 09:00
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph by
Kiichi Matsumoto
タイトル防衛率100%を誇る藤井竜王から七番勝負で初めて2つの白星を挙げ、意地は見せた。いざ相まみえて新たな発見や収穫があった一方で、改めて感じた王者との“距離”を冷静に振り返る。
果たして、絶対王者を仕留める者はいるか。ちょうど1年前、棋界最大のテーマに挑んだ広瀬章人八段は、天空の玉座に迫った刺客として記憶されている。
第35期竜王戦七番勝負。当時、2日制のタイトル戦で通算20勝2敗の圧倒的な戦績を誇っていた藤井聡太竜王が一度ならず、二度も広瀬の前で頭を垂れた。竜王にとっては初めてのことである。
「今シリーズでは広瀬八段に工夫をされる将棋が多く、なかなか良い指し方をできないことが多かった」
藤井は苦戦の理由をそう明かしている。事実、挑戦者は事前研究を尽くし、いくつも策を用意していた。第1局の2六歩型や第2局の“サザンハヤクリ”ならぬ3三金型+腰掛け銀など、例の少ない形へともっていき、多くの時間を竜王に使わせた。
広瀬はこのように回想する。
「狙いは駒組みに工夫を施して、少しずつリードを奪って差を広げること。その裏には『藤井さんだから、こうして来るはず』という読みがありました。現代将棋にどっぷり浸かった棋士なので、想定した将棋になりやすい。事実、AIを使って研究してみても、藤井さんがAIと同じ手を指す確率というのは極めて高い。だからこそ、作戦的にうまくいった部分もありました」
とりわけ、際立ったのが先手番での指し回し。このうち、第1局と第5局を見事に制している。先勝した第1局に至っては、広瀬自身も驚く快勝だった。