濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“朝倉未来を失神させた男”クレベルはなぜ完敗したのか? 金原正徳40歳の“ワンサイド勝利”が偶然ではない理由「寝技でも勝負できる」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2023/09/25 12:53
『RIZIN.44』メインにて、クレベルをパウンドで圧倒する金原正徳
敗れたクレベル「僕はまだスーパーサイヤ人じゃないから」
こだわったのは技術よりもコンディション作りだった。これまではケガをせずにコンディションを100%にもっていくことを重視していたが、今回はそうではなかった。
「今回は100%では勝てない。ケガする可能性があっても120%にと」
タイに渡り1日に2度、3度とトレーニング。「体がボロボロになった」という。ベテランらしさとは正反対の調整だったが、それを乗り越えたからこそ5分3ラウンド休みなく動き続けることができたのだろう。
試合後の金原のコメントは、それ自体が試合の的確な解説であり、また“MMA講座”のようでもあった。40歳、プロキャリア18年の含蓄。金原は何か特別なことをしたからクレベルに勝ったというわけではないのだ。クレベルほどの強者に勝つにはクレベルよりも強くなるしかなく、金原はそれをやった。敗れたクレベルはこう語っている。
「今日は僕の日じゃなかった。彼(金原)が強かった。僕はまだ“ファイター”だから勝ったり負けたり。スーパーサイヤ人じゃないから。負けたのは、神様が何か考えてそうなったんだと思う。これからもっと頑張ります。絶対もっと強くなって戻ってくる」
そういうふうにしか説明できない負けだったのだ。
“40歳”金原が考える「自分の役目」
榊原信行CEOは、11月に行なわれるフェザー級タイトルマッチの勝者に金原が挑戦すると明言した。11月に対戦するのは朝倉未来に勝ってベルトを巻いたヴガール・ケラモフと、クレベルに勝ったピットブルをKOした鈴木千裕だ。
金原は「正直、RIZINではベルトを目指してきたわけじゃない。でも自分が獲って喜んでもらえるなら」。自分の役目は頂点に君臨するとか、RIZINを引っ張るといったことではないと考えている。ではどんな役目か。
「格闘技の奥深さを伝えたり、同世代の人たちが自分に重ね合わせて夢を託してくれたり」
40代にして、日本最大の格闘技イベント、そのトップ戦線で勝利した。同世代の人たちに何を伝えたいか。そう聞くと彼は答えた。
「社会人経験がそんなにあるわけじゃないんで会社員の気持ちが分かるわけではないですけど、“生きてりゃいいことあるよ”って。長くやってたらいいことも悪いこともある、でもいいことが一つあると悪いことも帳消しにできる。今まで辛い時代もあったけど、今日みたいにメインでやらせてもらって、勝ったら報われますから」