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高校野球の“スマホ禁止・暴力”に慶応の選手がズバリ「判断の機会を奪っている」現地記者が“はじめて聞いた”発言録…いま思う慶応野球の真実
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/09/06 11:03
今夏の甲子園を制した慶応ナイン
他校の“暴力問題”にも言及
普段は穏やかそうなショートの八木陽もそうだった。
「監督にキツイ言い方をされて、それでもハイハイやるような野球は楽しくないですよね。春も(監督の)暴力騒動とかあったじゃないですか。なんでそうなるのか。一部の高校だとは思うんですけど、監督の力が強過ぎて、選手が受け身になっているからだと思うんです。そういうところも変えていきたい。そうすれば、小さい子が、もっと野球をやりたいってなると思うんで」
大人の行き過ぎた指導態度に対して、現場の高校生が自らあげる声を初めて聞いた気がする。そうなのだ。選手の側も、嫌ならば嫌と言えばいい。
慶応では練習メニュー等、自分たちで考える余白が常に残されている。三塁コーチを務めた宮尾青波は言う。
「うちは考えずに練習をやることがないので、意味のないランニングメニューとかもない。慶応の練習時間は、無駄を省いているので、多いところと比べたら3分の1ぐらいだと思いますよ」
携帯禁止は「自ら判断できる機会を奪っている」
高校野球ではSNSの利用はもちろん、携帯電話の所持さえ禁じられているチームも多い。一方、慶応ではいずれも自由だ。宮尾は、そうした現状にこう首を傾げる。
「冷静に考えたら、意味ないですよね。常識の範囲内で、いい使い方をすればいいだけのことですから。そうやって生徒が自ら判断できる機会を奪っているだけじゃないですか」
宮尾はきっぱり言った。
「僕らの目標は日本一。ただ、その目的は高校野球を変えることなんで」
エリート教育の本来の意味は、単純に才能を伸ばすことではない。その集団の中で広く役立つ人材づくり、つまりは、真のリーダーになりうる人材を育てることだ。「森林野球」の神髄は、おそらくそこにある。
慶応が日本一だったのは、野球の実力だけではない。
勝つことの意味。それを選手自身が、社会的なレベルで、ここまで追究したチームはかつてなかった。