野ボール横丁BACK NUMBER
慶応の監督が放った“決勝前日のある発言”に驚いた…TVに映らない本当の素顔「水をゴクリ飲んで沈黙」「帽子は取ってバッグは後ろ…を唱えて」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/08/25 06:01
慶応を率いる森林貴彦監督
試合後、監督や選手がお立ち台に上がるとき、高野連の誘導員はしきりと「帽子はとって、バッグは後ろに」という言葉を繰り返す。
そのせいなのだろう、3回戦でタイブレークの末に広陵をやぶったとき、森林は念仏のように「帽子は取って、バッグは後ろ……」「帽子は取って、バッグは後ろ……」「帽子は取って、バッグは後ろ……」と唱えながら、お立ち台へ向かって歩いてきた。
そのユーモラスな姿は、とても3時間に迫る大激闘を終えたあとの監督とは思えなかった。
決勝前日に放った「驚きの発言」
森林からは、貫禄や威圧感といった高校野球の監督にありがちな重みが一切、感じられなかった。いつも上機嫌で、軽妙で、飄々としていた。
代打が注目の清原勝児ではなかったときは、「メディア的には清原が出てきた方がおもしろかったと思うんですけど」と言って報道陣を笑わせる。
また、おもねる風ではなく、ごく自然な感じで記者への配慮も見せた。
囲み取材の際、たまに複数の記者が同時に質問をしてしまうときがある。その場合、どちらかの記者が優先権を譲ることになるのだが、森林は、その記者のことをきちんと覚えていて、最初の質問に答えたあと、後回しになった記者に「どうぞ」と言って水を向ける。そんな心遣いができる監督は滅多にいない。
前日会見のときは、もっと驚くべき言葉を聞いた。去り際、森林は、報道陣に対してこう言ったのだ。
「暑い中、明日もよろしくお願いします」
一瞬、ジョークかと思ってしまった。暑さということで言えば、グラウンドに立つ監督や選手の方が何倍も大変だろうに。
森林のそうした気配りは、やや度が過ぎていて、そこからもおかしみがにじみ出ていた。
常識を覆すと意気込んでいる割に、森林からは、その種の気負いや力みはまったく感じられなかった。だが、革命児とは、得てしてこういう人物なのかもしれない。