マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「実力49番目」と評された「普通の公立校」の下剋上 鳥栖工躍進の秘密は“兄弟バッテリー”と“交換日記”「時代に合った努力じゃないと結果は出ない」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/12 11:03
1回戦で6回から延長12回までをロングリリーフした1年生投手の松延響。兄の晶音(あぎと)は4番で捕手を務める
ポテンシャル抜群の1年生投手・松延響
「やっぱり、彼が運を持ってきたと思いますね。同点かリードした状況で響につなげば、勝てる。練習試合も公式戦も、古沢、松延響のリレーが、完全にウチの勝ちパターンになったんです」
その松延響、甲子園の大奮投を見て驚いた。
高めの140キロ前後が、本当にホップしている(ように見える)。
あのホップ成分抜群の快速球を、1年生のこの時期に投げられるとは。1997年、高知商の2年生で夏の甲子園に出場してきた藤川球児(元阪神)にも匹敵する。
「テークバックで結果後ろに引っ張るわりに、トップできれいに右手が上がる。トレーナーさんも、肩の回転が柔らか過ぎるぐらい柔らかいって、びっくりするぐらい。可動域が広いと痛みが伴うこともあるんですけど、響の場合は、野球を始めた小学生以来、一度も故障したことがないんです。体も強いんでしょうね。佐賀の監督さんたちの中には、唐津商の北方悠誠(2011年横浜1位指名)の1年生の時より、はるかに上だって言ってくださる方もいらっしゃるぐらいで」
1対1の同点、緊迫の試合終盤でも、平然と自分のペースで三振を奪いながら、タイブレークの初球でも、左打者の内角いっぱいに140キロの速球をきめて、表面がムダに燃え過ぎないのがいい。
兄貴を相手に、甲子園で投げられるのが嬉しくてしょうがない……といった表情で、程よく「内燃」しながら全力投球。真横にキュッと鋭く動くスライダーなど、大谷翔平の「スイーパー」のコンパクト版に見えていた。
「兄貴がキャッチャーっていうのが、いいですよね。『オレに向かって、思いっきり投げてこい!』みたいでね」
大坪監督の声が、もう一度弾んだ。
兄貴の松延晶音捕手、中学時はシニアで外野手だったという。