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藤井聡太21歳“36分の一手”は「コンピューター思考終了まで1時間以上かけても、最善手」高見泰地七段が驚く「冴えに冴えた藤井将棋」とは
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/08/15 11:01
史上最年少名人と七冠獲得を達成した藤井聡太竜王名人の一夜明け会見にて
高見 73手目の「8六玉」です。8筋を見ると、歩の先に相手の飛車が構えている状態ですよね? そこに玉がすっと横に寄って、まるで仁王立ちしたような状態が中盤に現れたんです。一見リスクの高い状態に見えるのですが、これをコンピューターで検討してみると、最善手の1、2番手に上がってくる手でした。
さらに驚いたのは――それぞれのコンピューターの性能にはよりますが――私が使っているコンピューターが自動的に思考を終了するまで、1時間以上はかかったかな? それだけの時間をかけても「ほぼ最善手」だったんです。
――AIがそれだけの時間をかけて思考した一手を、藤井棋聖は36分の考慮で指しています。
高見 そうですよね。「そもそもこれが最善手なのか」、続いて「あの局面で、この手をこれだけの時間で指せる棋士が他にどれだけいるのだろうか」という2点で驚かされたんです。さらに言えば、対局が終わった後に、対局者は自身の対局を研究します。その一手を後で見ることになるわけですよね。コンピューターで研究し直した結果、「8六玉」がずっと上位にある――というのは、底知れない怖さを感じてもおかしくありません。
藤井将棋に委縮してしまうところが出てもおかしくない
――対局後にまた藤井将棋の凄まじさを感じる。
高見 そうですね。ややもすれば藤井将棋に委縮してしまうようなところが出てきてもおかしくない。それほどの将棋だったと思います。
◇ ◇ ◇
叡王のタイトルを獲得した経験を持つ高見に、藤井将棋はまたしても強烈な印象を与えていた。ただその一方で、公私ともに佐々木七段を深く知るだけに「棋士として間違いなく彼が相当大きく成長できるチャンスが来てるのでしょうね」とも語る。藤井七冠に立ち向かう、佐々木七段の知られざる素顔についても、高見は余すことなく語ってくれた。
<#3につづく>