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【新記録】開幕12連勝達成のホンダが狙う、1988年のセナ&プロストが残したもう1つの偉大すぎる記録
posted2023/08/02 11:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images / Red Bull Content Pool
開幕11連勝――これは1988年にマクラーレン・ホンダが達成した連勝記録だ。その後、ウイリアムズ、フェラーリ、レッドブル、メルセデスという数々の最強軍団も黄金時代を築いたが、この記録に並ぶことはなかった。
その偉業に挑み、12連勝を達成したのが今季のレッドブルで、パワーユニット(PU)を供給しているホンダは自らの記録を破ることになった。11連勝は現在のホンダのスタッフたちにとっても特別な記憶だった。ホンダ・レーシング(HRC)のチーフエンジニアを務める湊谷圭祐もそのひとりだ。
「ホンダが開幕11連勝した1988年は私はまだ4歳だったので、リアルタイムでその活躍は見ていません。その後F1に興味を持ち、雑誌やテレビを見るようになって記録を知り、『ホンダってこんなに強いのか!』と思ったことが、この世界を目指すきっかけとなりました」
現場のエンジニアを襲った連勝のプレッシャー
そう語る湊谷のパソコンには、ホンダが作ったさまざまな偉大な記録を意味する数字のステッカーが貼られている。そのひとつに「11」という数字があった。ホンダに入社した湊谷は第4期活動から念願だったF1の部隊に抜擢。21年にタイトルを獲得し、22年にはホンダの地元・鈴鹿で2連覇を果たした。実績充分の湊谷が、今年は過去2年間よりも精神的にきついと感じていた。それは、あの11連勝の存在があったからだ。
「今年は開幕戦から勝ちまくっていますが、それによって1つも負けられないというプレッシャーも生じる。本当に苦しかった」(湊谷)
湊谷と同じくレッドブルでHRCのチーフメカニックとして働く吉野誠も、連勝記録が伸びれば伸びるほど表情を険しくしていった。自分たちのPUが原因で連勝記録を止めることだけは、絶対に避けたかったからだ。
35年前のマクラーレン・ホンダは、12戦目のイタリアGPで2台そろってリタイアし、記録が途絶えた。多くの人々の記憶に刻まれているのはトップを快走していたアイルトン・セナがリタイアしたことだろう。その原因となった接触の相手は、病気で欠場したナイジェル・マンセル(ウイリアムズ)の代わりに出場し、周回遅れとなったジャン・ルイ・シュレッサー。セナは残り2周で追い越しをかけようとした際に接触、コースアウトしてリタイアとなった。