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ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
井上尚弥に“階級の壁”はあるのか? バンタム→フェザーで世界を制した長谷川穂積に聞く“壁を感じた瞬間”「あれ、効いてないのかな、と…」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byNanae Suzuki
posted2023/07/25 11:02
現役時代の長谷川穂積さん(2012年撮影)。バンタム~フェザー級の3階級で世界を制した名王者は、井上尚弥の階級アップをどう見ているのか
厳しい減量はトレーニングだけでなく、試合でのパフォーマンスにも関係してくる。
「僕の場合、体質的なこともあって、バンタム級時代は毎試合、(脱水症状で)脚がつっていました。井上選手がこれまで試合でどういう状態だったかは分かりませんが、体を見れば減量がしんどいのは分かります。だからクラスを上げれば、間違いなくパフォーマンスは上がると思いますね」
「あれ、効いてない…」“階級の壁”を感じた瞬間
長谷川さんが井上の階級アップを肯定するもう一つの理由が“タイミング”だ。
「階級を上げるタイミングが抜群だと思います。減量が限界に近くなってきた、バンタム級で4団体を統一した、もう同じ階級に敵がいない……。海外だとウエートに余裕があって階級を上げる選手がいますけど、井上選手はそうではなく、ちょうど上げたほうがいいタイミングで上げる。そうなると減量苦から解放されてもっと強い井上選手が見られる。パワー勝負でも負けないでしょう」
とはいえ未知の世界に足を踏み出すのだから、不安がまったくないというわけにはいかないのではないか。長谷川さん自身、階級を上げるときは不安な気持ちに襲われた。
「上げると決めたときは『減量が楽になるからラッキー』くらいの気持ちでした(笑)。でも、試合が近づくにつれて不安になりましたね。自分のパンチが通用しないんじゃないかとか、相手のパンチはどれだけ強いんだろうとか……」
長谷川さんの場合は1階級飛び越えての2階級アップだったため、なおさら不安も大きかったのだろう。実際にフェザー級で試合をして“階級の壁”を実感した。
「前だったら倒れていたパンチで倒れない。相手の耐久力を感じました。あれ、効いてないのかな、倒れないな、と。そういうの、試合中はけっこうストレスになるんですよ。あとはくっついたとき、もみあったときに相手の体の芯の強さを感じました。そこは大きく違いましたね」