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〈116億円をFIFAが当初要求か〉「なでしこジャパンTV中継」ようやく開幕直前に…欧州、ブラジルも共通「女子W杯の正当な金額」という課題 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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photograph byMasashi Hara/Getty Images

posted2023/07/22 11:03

〈116億円をFIFAが当初要求か〉「なでしこジャパンTV中継」ようやく開幕直前に…欧州、ブラジルも共通「女子W杯の正当な金額」という課題<Number Web> photograph by Masashi Hara/Getty Images

パナマ戦後、2011年W杯キャプテンの澤穂希さんと笑顔を見せる熊谷紗希。「なでしこジャパン」の戦いをTVで見られるのは一安心だが……

 アルゼンチンはブラジルと並ぶ南米のフットボール大国で、昨年の男子W杯でリオネル・メッシら欧州ビッグクラブで活躍するスター選手を擁して3度目の優勝を遂げた。しかし、女子代表は今回が4度目のW杯出場だが、これまで一度もGSを突破していない。現在の世界ランキングは28位である。

 アルゼンチンの女子スポーツで圧倒的に人気があるのは、フィールドホッケー。女子代表は「ラス・レオーナス」(雌ライオン)の愛称で親しまれている。W杯を2度制覇し、五輪で銀メダルを3個。現在の世界ランキングは3位という世界の強豪だ。

 国内では、「ホッケーの選手がキュロットスカートで走るのは、女性らしい」という声が今もあるそうだ。もし女子の間でもフットボールが普及すれば世界の強豪となるのは間違いないが、人気が高まらず、強化が進まない。また、男子W杯で2度優勝しているウルグアイの女子代表の世界ランキングは、64位とさらに低い。

「女子フットボールの普及」が局所的であるという現実

 さらに、宗教上の問題もある。イスラム教では女性が肌を見せることを禁じている。選手はヒジャブを巻いている一方で、手足を露出してプレーすることには強い抵抗がある。 

 イスラム教徒が過半数を占める国で今回の女子W杯に出場するのは、ナイジェリア(世界ランキング50位)、モロッコ(同72位)の2カ国だけ。昨年の男子W杯には、アフリカ勢で史上初の準決勝進出を果たしたモロッコ、ベスト16入りしたセネガル、そしてチュニジア、サウジアラビア、イラン、開催国カタールの6カ国が出場した。 

 世界には文化的、社会的、宗教的な理由もあって女子フットボールの普及が進まない国が少なくない。北米、欧州諸国、日本、ブラジル、オセアニアとそれ以外の国とでは、普及と強化のレベルが大きく異なる。 

 FIFAが世界各国のテレビ局に対して「正当な金額の支払い」を求めるのは間違いではないだろう。しかし、ファンの興味と関心の点で、現時点で男子と女子のW杯に大きな差があるのは否めない。FIFAは「女子フットボールの価値」を強調するが、競技性を含めた価値創出に尽力せず、高額なテレビ放映権料を求めるのは無理があるとも言える。

 男子W杯が創設されたのは1930年で、女子W杯は男子から61年遅れて1991年に始まった。FIFAは、世界各国における女子フットボールの普及と強化にさらに努め、競技レベルを向上させて魅力と価値を高めなければなるまい。その努力が実を結んでいけば、自ずと世界各国のテレビ局もより高額の支払いに応じるようになるのではないだろうか。

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