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〈116億円をFIFAが当初要求か〉「なでしこジャパンTV中継」ようやく開幕直前に…欧州、ブラジルも共通「女子W杯の正当な金額」という課題 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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photograph byMasashi Hara/Getty Images

posted2023/07/22 11:03

〈116億円をFIFAが当初要求か〉「なでしこジャパンTV中継」ようやく開幕直前に…欧州、ブラジルも共通「女子W杯の正当な金額」という課題<Number Web> photograph by Masashi Hara/Getty Images

パナマ戦後、2011年W杯キャプテンの澤穂希さんと笑顔を見せる熊谷紗希。「なでしこジャパン」の戦いをTVで見られるのは一安心だが……

 1)日本では女子フットボールへの関心が高まっておらず、「なでしこジャパン」への世間的な興味と期待も以前より薄れている。
 2)FIFAが上記1)の事情を理解しておらず、要求額が高過ぎた。

 日本は、2011年のW杯でエース澤穂希らの活躍で劇的な初優勝を達成。翌年のロンドン五輪でも銀メダルを獲得した。さらに、2015年W杯でも準優勝と健闘したものの、2016年のリオ五輪アジア予選でショッキングな敗退。2019年W杯ではラウンド16、2021年の東京五輪ではベスト8で姿を消した。

 日本の場合、男子も女子も、代表チームの国際大会における成績が国内リーグの観客動員数に大きな影響を与える。

 なでしこリーグの1試合あたりの平均観客動員数は、2010年はわずか912人。ところが、W杯を制覇した2011年は2796人と急増した。ただし、その後はジリジリと減り続け、2021年秋に創設されたWEリーグの昨季は1401人。2022年のJリーグの平均観客数が1万4328人だから、その1/10足らずでしかない。

王国ブラジルなど南米諸国での実情は…

 男子W杯で世界最多の5度の優勝を誇るブラジルも、女子は日本と似たような状況にある。1999年W杯で3位、2004年五輪で銀メダル、2007年W杯で準優勝、2008年五輪で銀メダルと、南米では群を抜く成績を残してきた。しかし、国内リーグは盛り上がりに欠け、代表チームへの関心の度合いは国際大会の成績によって大きく左右される。

 一般に、南米諸国では女性がフットボールをすることへの心理的な抵抗がある。「フットボールは男のスポーツ」という概念が根強いためだ。 

 ブラジルには、男子であればペレ、マラドーナ、メッシ、クリスティアーノ・ロナウドに匹敵するマルタというスーパースターがいる。超絶ドリブラーにして強力なストライカーで、「フットボールの女王」、「スカートを穿いたペレ」と呼ばれ、37歳ながら今大会で6度目のW杯出場。過去5度のW杯で歴代世界最多の17得点を記録している。五輪にも5大会に出場してやはり歴代世界最多の13得点をあげ、銀メダルを2個獲得。世界年間最優秀選手に6度選ばれている。 

 そのマルタは、「少女時代、男の子に混じってボールを蹴っていると、周囲の人たちから『女らしくないから、やめなさい』と言われ続けた」と明かす。 母親も「大勢の人から、『どうして娘にフットボールをやらせるのか? みっともない』と詰られたが、『あの子が好きだから、いいんです』といつも突っぱねた」と語る。 

 もし母親が娘にフットボールを禁じていたら、あるいは本人が周囲からの圧力に負けていたら――女子フットボール史上最高の選手の一人であるマルタは存在しなかった。 

 現在、女子ブラジル代表の世界ランキングは8位で、南米では最上位だ。しかし、ブラジルの女子スポーツで最も人気があり、なおかつ国際大会で結果を残しているのはバレーボール。五輪で2度優勝し、銀メダルを1個、銅メダルを2個獲得している。そして、ブラジル人は女性がバレーボールをすることには何の抵抗も感じない。

【次ページ】 「女子フットボールの普及」が局所的であるという現実

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