The CHAMPIONS 私を通りすぎた王者たち。BACK NUMBER
ドネアを倒した世界王者を衝撃KO、中谷潤人とは何者か? 地元の師匠が34歳で急逝、中卒→米ボクシング留学…名伯楽は「将来はスーパーフェザー級」
text by
前田衷Makoto Maeda
photograph byJIJI PRESS
posted2024/02/25 11:04
タフと見られていた王者アレハンドロ・サンティアゴを6回KOで下した中谷。階級の壁を難なくクリアしてみせた「ネクストモンスター」とは何者なのか
ユーリ阿久井政悟との対戦
17歳になると早速日本のリングでデビューし、その後は段階を踏んで出世コースを歩む。東日本新人王、全日本新人王と勝ち進んだ。全日本新人王決勝戦で対戦したのは後の日本王者・矢吹正道(薬師寺、現緑ジム)で、これは接戦の末、中谷の手が上がった。「メンタル面で未熟だった」(中谷)が、勝利を手にしたことを素直に喜んだ。
'17年8月23日、12連勝をマークして迎えた後楽園ホールで行われた日本ユース初代王者決定トーナメントの決勝戦では同じように注目されていたユーリ阿久井政悟(倉敷守安)と対決した。当時阿久井は1引き分けをはさんで11連勝、5連続KOをマークして勢いに乗っていた。無敗の新鋭対決はどちらが勝つか予測がつかなかったが、中谷自身は「下馬評が不利だったので特に気合が入った」。劣勢を意識していたのだ。
中谷のボクシング人生のターニングポイントとも言うべきこの試合は、途中まで拮抗する熱戦が続いた。しかし的確にヒットする中谷が次第に主導権を握るようになり、6回の連打で阿久井の動きが止まったところでレフェリー・ストップとなった。
臨機応変な戦法こそが“潤人スタイル”
171cmとフライ級ではずば抜けて背の高い中谷は体形的にボクサー型だが、しつこいほどの連打には同じサウスポーのレパード玉熊(元WBA世界フライ級王者)を思わせるものがあった。玉熊も体形はボクサー型ながらインファイトのショート連打を得意とした。中谷自身は恵まれた体、負けず嫌いの性格とともに「対応力」を自らの長所に上げる。相手によって長いリーチを生かしたアウトボクシングも接近戦もできる臨機応変な戦法こそが“潤人スタイル”であり、自らの強みと信じているのだ。
阿久井戦以降は勝って当然の試合ばかりとなるが、これは相手の力量がどうこうより、中谷に対する評価が高まった証拠であろう。'19年2月2日、空位の日本フライ級王座を望月直樹(横浜光)と争い、タフな相手を圧倒して9回TKO勝ち。さらに世界タイトル戦すら勝って当然とみられ、実際にマグラモを終始圧倒したのである。
後楽園ホールに響いた祝福の拍手
この試合はコロナ禍によるイベント自粛の影響を受け、2度も延期された末に昨年11月、400席限定でようやく挙行された。待たされる辛さは過去に経験したことがないものだった。