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藤井聡太に3連敗を喫し号泣…出口若武が明かす、叡王挑戦の3局で起きていたこと「盤の前に座ったら頭が真っ白に」「もう少し藤井さんと指せば…」
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byTakashi Shimizu
posted2023/06/29 11:03
2022年春に藤井聡太叡王に挑戦した出口若武。3連敗で寄り切られた出口が振り返る第3局後に見せた涙の理由とは――
「ここは成桂を寄る手が有力で、評価値も落ちなかったと思います。ただそれだと際どいながらも私が勝ちそうという読みでした。だから藤井さんにとって本譜の飛車打ちは消去法だったんでしょうけど、そういう勝負をしてくるのかと意外でしたね」
評価値は下がっても、茫漠とした手に命運を託したということだ。この勝負手は奏功する。出口は持ち駒の金を打って飛車に当てたが、再び難解な形勢に戻った。手駒の金を温存して、自陣の金を活用すれば出口が優位を維持していたはずだった。この後、挑戦者に痛恨のミスが出て、初の大舞台はストレート負けに終わった。
圧倒された挑戦者からこぼれた大粒の涙
終局後、ファンの待つ大盤解説会に顔を出すと、出口の瞳から大粒の涙がこぼれた。
「勝ち味があったので悔しい気持ちもあったんですけど、やっぱり3局で終わってしまったので、応援してくれた方に申し訳ないという思いが強かった。もう少し藤井さんと指せば、自分の強いところもわかったかもしれないのに」
出口が将棋に負けて泣いたのは、奨励会入会直後に8連敗して降級点を喫した時以来だった。「でもその時はトイレの個室でしたからね」。人前でも押し止められなかった出口の涙を通じて、藤井聡太という棋士の凄みを突きつけられた。
斬り合うというよりは、アヤを丁寧に消してくる
3局盤を挟んで、出口は藤井にどういう印象を持ったのか。
「棋風は手堅いと思いました。斬り合うというよりは、アヤを丁寧に消してくる感じです。藤井さんの強さがどこにあるか? それはよくわかりません(笑)。ただ間違いなく言えるのは、どのような状況でも結果を残されていることです」