それにしても、プレイオフを通してのヨキッチの活躍は異次元だった。元々、パスとシュートが上手く、賢い選手だったが、そこにメンタル面での成長やチームメイトとの連携強化の積み上げがあり、リーグ最高のチームの最高の選手であることを見せつけた。

　西カンファレンス決勝では、八村塁もいるロサンゼルス・レイカーズと対戦していたが、八村やアンソニー・デイビス、レブロン・ジェームズらが交代でマッチアップしたり、ダブルチームで守っても、抑えることはできなかった。

レイカーズ戦では八村塁とマッチアップしたヨキッチ（左）©︎Getty Images

NBAファイナルではMVPに選出される活躍を見せた　©︎Getty Images

　ディフェンスを引き付けてチームメイトたちにパスを出し、自分の得点が必要だと思えば50点をあげることもできる。決してジャンプ力があるわけではないが、ボールに対する嗅覚でリバウンドを取る。プレイオフを通して、相手チームのコーチや選手たちが何とか彼を抑えようと、様々な手を打ってきたが、誰も彼を止めることができなかった。結局、プレイオフ全20試合の通算で600得点、269リバウンド、190アシストを記録。3つのカテゴリーすべてでリーグ首位なのはリーグ史上でも初めてのことだった。

　さらに、NBAファイナル5試合では平均30.2点、14.0リバウンド、7.2アシストをあげ、NBAファイナル史上で初めて、平均30点以上、14リバウンド以上、5アシスト以上を記録した選手となった。ナゲッツが優勝すると、全票一致でNBAファイナルMVPに選ばれた。

「誰も仕事は好きじゃないからね（笑）」

　優勝後にヨキッチについて聞かれたナゲッツのヘッドコーチ、マイケル・マローンは言った。

「今夜のような（優勝を決める）試合でも、ニコラはいつもと同じ試合だとばかりにふるまっている。どれだけ成功しても変わることがなかったし、これからも変わることがないだろう。それが彼の本質なんだ。これだけ歴史に残るようなすばらしい選手、そして人としてさらにすばらしい彼といっしょにやれることはすばらしいことだ」

　優勝した後、ヨキッチは言った。

「仕事を成し遂げ、優勝することができた。それはすばらしい気分だ。『僕』が優勝したのではなく、『僕ら』が優勝することができた。でも、それは僕にとって一番大事なことではない。僕はほかに好きなことが色々とある。それは普通のことだと思う。誰も仕事は好きじゃないからね。好きだと言う人がいたら、それは嘘をついている（笑）。それでも、自分たち以外の誰も信じていなかったことを成し遂げられたというのは、とてもいい気分だ。デンバー・ナゲッツの選手全員がお互いを信じた。それが一番大事なことだ」

　セルビアのソンボル出身で、家族と故郷が大好きなヨキッチは、どこに行ってもまわりに染まることなく、NBAの頂点にたどり着いた。そんな優勝のしかたがあってもいいし、そんなMVP選手がいてもいい。大事なのは自分らしさを失わないことなのだということを見せてくれた。

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