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「だって乗っているのが僕ですから」テイエムオペラオー“覇王”前夜の1ハロン…和田竜二が語る伝説のダービー秘話「あの感触は今も残っています」
text by
軍土門隼夫Hayao Gundomon
photograph byTomohiko Hayashi
posted2023/05/26 17:00
先頭で右ムチを連打する和田竜二(橙帽)/テイエムオペラオーと食らいつく渡辺薫彦(緑帽)/ナリタトップロード。武豊(白帽左)/アドマイヤベガはそれを大外から窺う
和田の2年先輩で、デビュー以来、地味な成績が続いてきた渡辺のもとに、ついに現れたGIを狙えるパートナーがナリタトップロードだった。渡辺は初戦から手綱を取り、きさらぎ賞ではデビュー6年目にして待望の重賞初制覇を達成していた。
和田と渡辺はいずれも父が栗東の厩務員で、子供の頃から互いを知る間柄だった。
「馬がそうなので当時はライバルみたいにも書かれましたが、少し違いましたね」
騎手を引退し、現在は調教師となっている渡辺はそう振り返る。明るく活発な和田と、優しく控えめな渡辺。性格は対照的だが、二人はよく気が合う。今、和田は渡辺厩舎の主戦騎手と呼べる存在だ。
「沖先生をダービートレーナーに」
二人に共通していたのは、自身の所属厩舎の馬でダービーに臨むという点だった。
テイエムオペラオーの岩元市三。ナリタトップロードの沖芳夫。どちらの調教師も、有力馬としてダービーに出走する管理馬に、どう見てもまだ経験も実績も乏しい弟子を乗せることへの躊躇などまったくない、大きな愛情と男気の持ち主だった。
「今、調教師になってみて、それがいかにありがたいことだったのか、あらためて感じています。だから僕の場合は自分のことより、沖先生をダービートレーナーに、という気持ちが大きかったです。それは和田もきっと同じだったと思います」
迎えたダービー、1番人気には単勝3.9倍でナリタトップロードが推された。2番人気は同じ3.9倍でアドマイヤベガ。テイエムオペラオーは4.2倍の3番人気だった。ちなみに渡辺も和田と同様、ここまで東京競馬場では26戦してわずか1勝と、ほぼ実績はないようなものだった。
一方、アドマイヤベガの鞍上は武豊。前年のスペシャルウィークに続き、前人未到のダービー連覇を狙う30歳は、この時点で7年連続リーディングを継続中だった。
勝敗を分けた最大のポイントは、残り600m手前にあった。
レースはダービー史上に残る、激しく、ハイレベルなものとなった。
スタートするとすぐ、ワンダーファングとマイネルタンゴが後続を離しながら1コーナー、2コーナーと回っていく。ポツンとヤマニンアクロ。また間隔が開いてブラックタキシード以下の先団。馬群は縦に長い、バラバラの展開となった。