オリンピックへの道BACK NUMBER
シングルアクセル動画も話題…伊藤みどり(53歳)はなぜ“アダルト競技会”で輝き続けるのか? 浅田真央も「憧れの人」 コーチが明かした原点
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PRESS
posted2023/05/25 11:01
2018年の「レジェンドオンアイス」で演技する伊藤みどりさん
「シングルアクセル動画」はSNSで話題に
伊藤の影響は日本国内にとどまらない。自身のアクセルジャンプへのこだわりも強く、昨年12月にシングルアクセルを成功させた動画をSNSにアップすると、オリンピック公式チャンネルが取り上げるなど海外でも大きな話題を集めた。5月にも成功させた映像を投稿し、やはり反響を呼んだ。今なおアクセルジャンプが跳べることへの驚きと伊藤みどりというスケーターへの敬意を、それらの反響は示している。
競技生活を退きアイスショーなどで活躍したあと、スケート教室で指導にあたるなど普及に務めていた伊藤は、2011年に国際アダルト競技会に初めて出場したのを含めこれまでに5度、国際アダルト競技会に出場している。
今回出たのは1回転より多いジャンプを入れられない部門のため、流れの中で1回転ループをつけていたが、長年の武器としていたアクセルジャンプは跳んでいない。
それでも演技は圧倒的だった。
“アクセルジャンプがない演技”だったからこそ
ジャンプがどうというよりも強い印象を残したのは、伸びやかで優雅でもあるスケーティングのたしかさや、1つ1つ情感の込もった動作や表現であった。
何よりも伝わってきたのは、演技全体から生まれる、滑ることへの楽しさと幸福だった。1位になったことは無論のこと、そこに今大会の演技の根幹があった。アクセルジャンプがない演技だったからこそ、また異なる魅力が際立ったとも言える。
伊藤はコロナ禍で自粛して氷上から離れていた時期があり、その時間を経て滑ったときに感じたのは、滑ることの喜びだったという。そんな思いがあふれているかのような演技だった。
以前、伊藤を指導した山田満知子コーチがこう語っていたのを思い出す。