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酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「野球界のマーケットから離れた人材を」独立L茨城が“35歳のNHK元ディレクター”を監督にした理由「監督って難しい。でも魅力的な…」
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2023/05/14 17:02
茨城アストロプラネッツの伊藤悠一監督と色川冬馬GM
「1月7日に静岡から茨城に家族とともに引っ越して、10日くらいに自主トレを見に行きました。NHKのディレクター時代は日本全国を回ったのですが、なぜか茨城だけは行ったことがなくて、初めての土地でした。
普通、野球チームは“勝利”を第一に目指すのですが、茨城アストロプラネッツは、その前に“選手のスケールアップ”“成長”がくるんですね。順序が逆で、勝利だけじゃなくその過程も大事だと。そのことを知ってすごく魅力を感じました。自分が思い描いた通りだと思いました」
この稿の冒頭で紹介したように伊藤監督が就任直後の記者会見で、具体的な「推しの選手」を挙げている。それは1月の自主トレから足を運んで、選手をじっくり見ていたからなのだ。こうした準備もディレクター時代に培われたものだろう。
かつてのドラ1が投手コーチを務める中で
開幕直前の茨城、笠間球場での練習では、伊藤監督は野手や打者の後ろから選手の動きを観察していた。
今年、茨城アストロプラネッツはコーチ陣やチームスタッフを増員している。野球経験がほとんどない、純粋なディレクターを監督にいただくからには、周辺をエキスパートで固める必要がある。当然の配慮ではある。
投手陣は2008年のドラフト会議でソフトバンク1位指名を受けた巽真悟コーチが見る。巽コーチは選手兼任だ。野手陣は菊名裕貴野手戦略コーチ。トレーナーやテクニカルアドバイザーなどの陣容も充実している。
練習後、色川GMを中心にミーティングが行われた。この日の練習時に、主力級の投手が故障した。急遽、その投手を呼んで、故障の状態を聞くとともに、どうすべきかが話し合われた。
試合は2日後に迫っている。主力級が抜けることで、ローテーションも救援陣の手当ても変わって来る。色川GMがその状況を説明し、投手コーチやトレーナーなどが対策を口にする。投手自身も自ら感じた故障の程度や、復帰の見通しなどを語る。
チームとしては投手にはできるだけ早く復帰してもらいたいが、急がせてパフォーマンスが落ちては元も子もない。本当にそれでいいのか、最悪の事態はどうなるのか? 色川GMとコーチ陣のやりとりが続く。
対戦チームの監督はかつての名エースだった
伊藤監督はあまり口を開かない。まだ実戦経験がないだけに、意見をさしはさむことができないのだろう。しかしディレクターは、頭の中でいろんな思索を巡らせていたはずだ。いろいろな「現場」を経験してきた彼は、この状況を把握してどのような判断をすべきかを考えたのだろう。