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「辰吉は1億7000万円」なのに「薬師寺は2000万円」報道も…「絶対に赤字でしょ?」29年前“伝説の薬師寺vs辰吉”、試合前のモメごとがスゴかった
text by
細田昌志Masashi Hosoda
photograph byAFLO
posted2023/04/06 11:02
1994年12月4日、伝説の「薬師寺保栄対辰吉丈一郎」。中部で視聴率約52%、関東でも約40%を記録した歴史的な一戦だった
これまで、日本のボクシング界において、過去2度入札が行われている。1度目は1976年5月8日の「WBC世界ライト級タイトルマッチ/王者・ガッツ石松(ヨネクラ)対挑戦者・エステバン・デ・ヘスス(プエルトリコ)」で、入札に敗れた石松側は敵地プエルトリコで防衛戦を行い、石松は6度目の王座防衛に失敗、王座から陥落している。2度目は1987年7月22日「WBC世界スーパーライト級タイトルマッチ/王者・浜田剛史(帝拳)対挑戦者・レネ・アルレドンド(メキシコ)」で、浜田側が入札に勝利し、東京で開催したものの、浜田本人は6RTKOに敗れ王座から陥落している。なお、入札の最高額は1990年10月25日「WBA・WBC・IBF世界ヘビー級タイトルマッチ/王者・ジェームス“バスター”ダグラス(アメリカ)対挑戦者・イベンダー・ホリフィールド(アメリカ)」の一戦で約42億円(当時のレート)である。
このように、入札となると落札額の高騰が予想されるため「なるべく入札は避けよう」と考えるのが一般的で、このとき折衷案を提案した大阪帝拳の吉井清が最後まで入札回避に動いたのは、ファイトマネーの高騰の防止を念頭に置いたのもさることながら「東京の帝拳本部に主導権を握られたくない」という帝拳グループ内の複雑な内部事情も見え隠れしていた。
また、入札となると両陣営と無関係のプロモーターが介入することも可能となり、高騰化に拍車をかけることもある。事実、9月1日にWBC本部のあるメキシコシティーで行われた入札には、松田ジム会長の松田鉱二、東京の帝拳プロモーション会長の本田明彦、大阪帝拳マネージャーの吉井寛(現・会長)以外にも、モハメド・アリやマイク・タイソンのプロモートで財を成した大物プロモーターのドン・キングまで参加している。
大方の予想は「帝拳が持っていく」と見た。東京の帝拳も含めて「2対1」である。いや「3対1」という見方も出来た。と言うのも、これまで日本で2度行ったマイク・タイソンの世界戦は、キョードー東京と帝拳プロモーションの共催で行われており、その意味においては、ドン・キングも帝拳サイドと見る向きもあり、事実そうだったはずだ。
この入札をめぐる争いもスポーツ紙は丹念に追った。記事を読みながら23歳だった筆者は「東京開催で日本テレビ単独放映」を予想した。決め手は資金力である。同時に辰吉の試合が、日本テレビ系列以外の電波に乗ることが考えられなかったのもある。
「どうみても赤字としか思えない」
しかし、結果は意外なものとなる。以下は入札の金額である。
大阪帝拳ジム(237万9999ドル=約2億3800万円)
ドン・キングプロモーション(320万1500ドル=約3億1500万円)
松田ジム(342万ドル=約3億4000万円)
落札したのは松田ジムで、放映権はCBCの手に渡った。両陣営のコメントがある。