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宇野昌磨のガッツポーズは「こみ上げるものが…」不調だった“世界王者”はなぜ大舞台で輝いた? コーチの証言「彼はパニックにならない」 

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田村明子

田村明子Akiko Tamura

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photograph byAsami Enomoto

posted2023/03/28 17:01

宇野昌磨のガッツポーズは「こみ上げるものが…」不調だった“世界王者”はなぜ大舞台で輝いた? コーチの証言「彼はパニックにならない」<Number Web> photograph by Asami Enomoto

世界選手権2連覇を達成した宇野昌磨(写真はSPの演技)

珍しく出たガッツポーズ「こみ上げるものがあった」

 演技が終わると普段は冷静な宇野には珍しくガッツポーズをとり、はじけるように喜びを表現した。その時の気持ちを聞くと、こう答えた。

「この1年2年くらいは本当に練習通り、という試合がほとんどでした。それで満足していたしそれ以上は求めていなかったんですけど、この10日くらい、直前の練習での転倒もあり、このまま演技してしまったらあまりいい演技にならない、というのが久々だった。その中でちゃんと気持ちを整えて試合に臨むことができて、やりたいことをやりきることができたというのが試合直後に……。冷静にやっても駄目だなというのがあったので強い気持ちで行ったのでその結果こみ上げるものがあったんじゃないかなと思います」

演技が終わった瞬間、宇野は糸が切れたかのように…

 SPでは圧巻の演技を見せたが、フリーの4分間を足首が耐えきれるのか。上の席までいっぱいとなったさいたまスーパーアリーナの観客が見守る中で、宇野の「G線上のアリア」が始まった。冒頭の4ループがきれいに決まり、大きな歓声が沸き上がった。続いて跳んだ4サルコウでは着氷が乱れて回転不足となったが、持ち直して次の4フリップ、そして3アクセルと降りて行った。

 ジャンプが不調で表情も暗かった公式練習からは、まるで別人のようである。どこにこんな底力を秘めていたのか。後半の二度の4トウループはわずかな回転不足となったが、3アクセル+2アクセルのシークエンス、そして最後のステップ、スピンではすべてレベル4を獲得。五輪銀メダリスト、世界王者の実力、そして意地を見せてもらった。

 演技が終わった瞬間、宇野はまるで糸が切れたかのように、クマのぬいぐるみのようにコロンとリンクに大の字に倒れこんだ。持っているもの全て出し切った、というような苦し気な表情をしている。だが起き上がると、すぐに笑顔になってスタンディングオベーションの観客たちに応えた。

 そんな宇野をコーチのステファン・ランビエルは両手を広げて迎え、感無量の表情でしっかりと抱きしめた。

【次ページ】 コーチから宇野へ「夢は、僕を乗り越えていってくれること」

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