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藤井聡太五冠vs.羽生善治九段は例えるなら「ディープ対ルドルフ」 競馬好き、高見泰地七段が解説する“世代を超えた歴史的一戦”
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byJIJI PRESS
posted2023/02/25 06:02
棋界のみならず、多くの注目を集めている藤井聡太王将と羽生善治九段の王将戦七番勝負。解説に定評のある高見泰地七段に話を聞いた
まず藤井について、高見は副立会人を務めた第3局の局面を挙げる(※▲が藤井、△羽生)。
「棋譜で表現すると、2日目の封じ手開封後の55手目から〈▲6三馬、△4三金、▲4一馬、△4四玉、▲3七歩、△同歩成、▲4五歩〉としたところが、非常にうまいなと感じたんです」
この局面、盤面を見ると当初は羽生玉に前方へと抜け出せそうなスペースがある。しかし……。
「気づけば上に逃げられない状況となっていて、2つの歩の技術で玉を押し戻した。なかなか普通では考えつかない手なんですよね。藤井さんとしてみれば、一見広そうに見える相手玉が広くないと把握して進めていたんです」
少しでもリードを許すと苦しいと感じる強さ
ほとんどの棋士が気づきづらい手を指すのが、藤井将棋の強さの1つだと言われている。その辺りについて、2022年に2局対戦した経験を持つ高見はこのように説明する。
「この局面は、例えばAIの評価値であれば〈54~55%〉と少し優位に立っている状況なのかもしれないですが、局面が進んでいくうちに互角に戻っていたとしてもおかしくないんです。だけど藤井さんの場合はわずかなリードを上手くつなげていく。藤井さんの勝ちパターンとして、いわゆる藤井曲線(※将棋中継で表示される評価値で、徐々に藤井優位を示していき、終盤に入ると一気に藤井優勢を示す)の存在は将棋ファンの方も知るところかと思いますが、実際に対局している相手からすると、少しでもリードを許すと苦しいと感じる強さがあるんです」
第2局もすごい勝利だなと思って見ていましたが…
詰将棋を趣味とする藤井が、驚きの逆転勝利を積み重ねてきたのはデビュー直後のこと。近年は序・中盤での指し回しも非常に充実しているとは、高見を含めた各棋士の共通する認識だ。ただもちろん、圧倒的な終盤力は今もなおベースにあるのだから……その難攻不落ぶりが伝わる。