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那須川天心24歳の一挙一動に黒山の人だかり…ボクシング界は「宝物」をどう迎え入れたのか? 神童の“異例すぎるプロテスト”の内幕
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/02/11 11:06
2月9日、B級ライセンスを取得しプロボクサーとしての第一歩を踏み出した24歳の那須川天心。視線の先には世界の頂を見据えている
日本バンタム級1位と互角以上のスパーリング
スパーリングのあと、取材に応じた南出は「想像以上に速い。ジャブも足もカウンターも速い。自分もスピードには自信があるけどそう感じた。“プロの洗礼を浴びせた”くらい書いてもらおうと思っていたのにダメだった」と那須川の実力を評価した。
この日、スパーリングとはいえ日本バンタム級1位の南出と互角以上の内容を演じたことで、那須川の“最低ライン”は見せられたと言えるだろう。一方で、「まだデビュー前のルーキー。ボクシングはキックボクシングとは違う」という声があるのも事実。帝拳ジムの本田明彦会長は「ボクシングファンの6、7割はアンチだと思う」と語った。
そこまでアンチが多いとも感じないのだが、那須川もこのあたりは少なからず気にしている様子で、「そんな甘くねえぞとかいろんな目で見られると思うけど、ボクシングを舐めているわけでもないですし、尊敬をもって挑もうと思っている。そういう人たちとの勝負でもあるので、しっかり自分で証明する」と実力で雑音をシャットアウトする意気込みだ。
2年前に同じくキック王者からボクシングに転向し、東洋太平洋チャンピオンとなった武居由樹(大橋)もデビュー当初は「アウェイの空気」を感じたという。それがいまでは応援の声が圧倒的に多く、しかもキックのファンも引き連れて、すでに世界チャンピオン級の人気を博しているのは周知の事実である。
南出が所属するセレスジム会長で、日本プロボクシング協会の小林昭司会長は「協会長としてキックのスーパースターがボクシングに来てくれたことはうれしい。こんな明るいニュースはない。那須川選手には何より華がある。協会長として大いに期待したい」と話した。強い選手を作ることはできても、スターを作るのはまた別の話。そんな思いが小林会長の言葉からは伝わってきた。