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「世界一と胸を張って言える」名前が消えたホンダが31年ぶりに獲得した、一番欲しかったコンストラクターズチャンピオン
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2022/11/06 06:00
2022年のコンストラクターズタイトルを「レッドブル・レーシング・RBPT」として獲得した、ホンダのエンジニアたち
それに伴い、現場でのサポートにも変更が生じた。テクニカルディレクターだった田辺豊治は日本に戻り、ホンダが現地採用していたスタッフの多くがRBPTへ移籍。ただし、それ以外のホンダのメンバーは吉野をはじめ、ほとんどが現場に残ってレースを継続する道を選んだ。その一人で、レッドブルでセルジオ・ペレスのPUエンジニアを務める湊谷圭祐は言う。
「昨年、あと一歩届かなかったものを獲りたかった」
だからホンダは開発の手を緩めなかった。2022年に投入したPUは2021年よりもさらにパワーアップし、かつ信頼性も向上した。昨年、ホンダとチャンピオン争いを演じたメルセデスのトト・ウォルフ代表も「いまやホンダのPUが総合力でF1界最強だと言っていい。F1界の新しいベンチマーク(指標)だ」と語るほどだった。
パワーユニット名称に滲む敬意
だが今年、ホンダの名前はコンストラクターとして公式登録されていない。2021年に「レッドブル・レーシング・ホンダ」として国際自動車連盟(FIA)に登録されたコンストラクター名は、2022年は「レッドブル・レーシング・RBPT」に変更された。
また、PUの名称も変更された。2015年に復帰して以降、ホンダのPUの名称には「RA6◯◯H」が使用されてきた。RAはホンダのF1活動で長年使用されてきた「Racing Automobile」の略で、6は「6気筒」を意味する。◯◯には投入年数の西暦の下二桁が入り、最後のHは「ハイブリッド」の略だ。ラストイヤーにホンダが投入したPUの名称は「RA621H」だった。
その名称が、2022年は「RBPTH001」となった。「RBPT」とその1基目を意味する「001」の間にある「H」はやはりハイブリッドを示すが、ホンダへの敬意を表す「HONDA」のイニシャルだとも言われている。クリスチャン・ホーナー代表はこう語る。
「コンストラクターだろうと、そうでなかろうと、ホンダがわれわれのチームの一員であることは、いまも変わりはない。ともに手にした栄冠だと思っている」
F1活動を「公式には終了」して迎えた復帰8年目で、ホンダはついにコンストラクターズタイトルを獲得。2015年の復帰当初、戦闘力の低さを嘲笑すらされた彼らは、ついに本物の尊敬を得るに至ったのである。
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