濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「プレッシャーも凄かったはず」フワちゃんデビュー戦で見えた“プロレスへの本気度”…師匠が明かす舞台裏「100点満点。努力の成果です」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/10/24 17:01
10月23日、スターダムにてデビュー戦を迎えたフワちゃん
師匠の言葉「失敗してもいい。とにかくプロレスを楽しんで」
課題だった感情表現も大合格だった。闘志、攻撃を受ける痛み、苦しさ、拍手を浴びる喜び。フワちゃんはあらゆる感情を全身で表した。
「とにかく感じたことをそのまま出せばいいから。技なんて失敗してもいい。お客さんは四方にいるから、どこにアピールしてもいい。とにかくプロレスを楽しんで」
そう伝えた葉月から見ても水準以上。普通のスポーツは対戦相手に感情=自分の状態を明かしてはいけない。だからポーカーフェイスが基本だ。しかしプロレスはスポーツであり闘いであり、同時に“見せる”ことを前提とするエンターテインメント。あらゆる感情は表現してこそ意味がある。そして感情を表に出すことは、意外に難しいのだと葉月。
「普段の生活では、怒ってもそれを表に出さないじゃないですか。道で肩がぶつかっても、その度に“オラっ!”とはなりませんよね、普通。でも、それをどんどん出していくのがプロレス。急にやっていいと言われても、なかなかできないんです。
でもフワちゃん、できてましたね。お客さんの拍手に乗せられた部分もあるんじゃないかな。(コロナ対策で今は禁止の)声援があったら、もっとよかったかもしれないですね。それだけ伸びる可能性もある」
今度は対角に立って、フワちゃんと対戦したいそうだ。“受け”にこだわりがある葉月だけに「フワちゃんの技を全部受け止めたい」。と同時に、本人がほしいと言っている必殺技を伝授したいとも。
「師匠と弟子としての闘いをしてみたいですね」
「痛かった。でもその痛さがキラキラしてるように感じて」
プロレス継続参戦は、試合後のリング上でフワちゃん自身が望んでいたことだ。
「私も本物のプロレスラーになりたい。テレビ(の企画)でプロレスやって負けて、いい話に編集してもらって、それで終わりじゃ嫌です!」
葉月からは「もう本物のプロレスラーだよ」と言われたが、本人はもっとやりたいし、やっぱり勝ちたい。全身が痛い。それこそネイルの先まで痛いくらいだ。でも楽しかった。これがアドレナリンなのか。そう言って笑顔も見せた。だがマイクを渡されての第一声は「負けました! 悔しい」だった。デビュー戦だろうと芸能人だろうと、それこそテレビの企画だろうと負けたら悔しい。その負けず嫌いもフワちゃんの才能だ。
インタビュースペースでの言葉からも、彼女のセンス、その鋭さが感じられた。生まれて初めて人を殴って、殴られて。その感想がこうだ。
「痛かった。でもその痛さがキラキラしてるように感じて。キツいけど終わりたくなかった」
この日の大会、セミファイナルで大苦戦の末に勝利した元WWEスーパースター、KAIRIのコメントも紹介しておこう。
「この痛みを待ってました。痛みなくして勝利なし」
確かにレベルは違うだろう。しかしフワちゃんもKAIRIと同じように、プロレスでしか味わえない悦びを知る身となったのだ。こんな言葉もあった。
「(会場の)奥の奥から熱気、頑張れっていう気持ちが伝わってきて。ゼロの(何もない)白い空間でやれって言われても、あんなに強くできなかったと思います。マジみんなのおかげ、ありがとう」
プロレスの盛り上がりは選手と観客の気持ちのやりとり、その相乗効果という面がある。デビュー戦でそれを感じたのだから、やはりその感性はプロレス向きだ。