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ラグビーPRESSBACK NUMBER
「死んだ方が楽かな」突然の病宣告に立ち向かった早大生が記したラグビーノート…“生きるための努力”から始まった629日
text by
中矢健太Kenta Nakaya
photograph byAsami Enomoto
posted2022/10/14 11:03
629日ぶりの公式戦に出場した早稲田大学ラグビー蹴球部・小西泰聖(4年)
異変を感じたのは2020年のシーズン中だった。妙に疲れやすく、身体が重い。でも、プレーは問題なくできている。
シーズン中なんて、みんな小さな怪我や痛みを抱えている。むしろ、これを乗り越えることが成長に繋がる。そう思い、あまり気に留めず、リカバリーに取り組んだ。
チームは大学選手権決勝で敗退。納得のいく結果ではなかったが、2年生ながら公式戦9試合に出場した小西はオフに入った。
翌年度のシーズンインを迎えると、状態は明らかに悪化していた。強みのスピードが全く出ない。速くも、長くも走れない。チームメイトがその異変に気づくほど、フィットネステストの数値はガタ落ちした。コーチとも相談して、一度、検査を受けることになった。
そこで、異常が見つかった。
精密検査を受けるため、入院が決まった。21年4月のことだった。
体重は14キロ落ち、階段を登って脚が攣った
入院直前の診断で医師から告げられた。
「今の状態ではラグビーを第一線で継続していくことは困難です」
いざ現実を突きつけられると、なにも言葉が出なかった。医師の言葉が脳内を飛び回る。自分がラグビーを辞める。現実味が微塵も湧いてこなかった。
入院して1週間は、毎日さまざまな検査を行った。8日目には異常の詳細が判明。長い戦いになることがわかった。当初1カ月の予定だった入院は、検査の結果が安定せず、延びることになった。外に出られない日々が続いた。怖かった。
2カ月の入院生活を経て退院。体重は59キロ。入院時から14キロも落ちていた。なんでもない階段を登ると、脚が攣った。外出はもちろん、動くことに制限がかかっていた。ずっと病室のベッドにいたダメージは、想像以上に身体への負担となっていた。
もはや、自分はラグビーをできる次元にいない。そう思った。
速いパスを投げるにはどんなことを意識するか。良い状況判断には何が必要か。より良い選手になるには何をすべきなのか。いつ何時も、ラグビーのことしか考えてこなかった。
それを奪われた日常は、余白に溢れた。体感する一瞬一瞬がゆっくり流れ、目に映るものは鮮やかに感じられた。吹く風や、咲く花。景色ばかりが新鮮味を帯びて入ってくる。
しかし、ラグビーのことは、何も考えられなくなった。
「本当に真っ暗ですよね。プレーできてたら、例えば海外留学するとか、当時はトップリーグだったんでトップリーグ進みたいとか、学生の時に代表に選ばれるとか。そういう目標だったり、夢っていうのは描けてはいたんですけど、それが全部なくなり、何をするんだ、何ができるんだっていう。できることも思いつかないですし……」
自分にとっていちばん大好きなものが、大切にしてきたものが、突如として消えそうになっていた。