大谷、大谷、大谷。この前日に日本球界最速となる163キロを計測したことについて、「どう思いますか？」と聞かれる。

　＜大谷を倒した男＞

　そんな文言が躍る。ホームランを打ったことこそ記載されていたが、それが東から打ったものだと説明されていない記事すらあった。

　大学での大半がそんな報道のされ方だった。

「その試合より、高校の時に打ったことのほうを聞かれたり、書かれたり。大学で結果を残したことのほうが小さく扱われたり。『まだそれ出すか？』とか『もっと俺自身に注目してくれよ！』とは思いましたけどね。大学時代は自分の考え方とか浅かったんで、そういう気持ちになったこともあります」

プロ1年目の大谷翔平（2013年）　©BUNGEISHUNJU

　大谷に追いつき追い越せと研鑽を積んでいるのに、周りは「引き立て役」としか見てくれない。二橋は東日本国際大で、4年春のリーグ戦でのMVPをはじめ11のタイトルを獲得。5度のリーグ優勝にも貢献した。

　わかってはいるのだ。野球選手としてのキャリアを重ねられているからこそ、大谷との差が天と地ほど離れてしまっていると。

　16年の大谷は10勝を挙げて22本のホームランと二刀流の地位を不動のものとし、日本ハムの日本一の原動力になった。そして、自身が目指すメジャーリーグ挑戦が、いよいよ現実味を帯びていた頃でもあった。

　メディアへのある種の忌避感は、自分へのもどかしさの表れでもあったのだ。

「大谷がプロ1年目からバリバリ活躍しているのを見たり、その頃からすでに『俺なんかが取材されるのはおこがましい』というか。大学ではリーグ戦で打てても、オープン戦で関東の社会人チームと対戦すると『まだまだだな』って感じさせられていましたからね」

「取材されることがありがたいと思うようになった」

　大学卒業後に三菱日立パワーシステムズに進んでからも、大谷関連の取材も続いていた。

――プロで大谷選手と対戦したいですか？

「向こうはそろそろメジャーに行っちゃうし、無理じゃないですか」

　こんなやり取りが定番となっていた。

　大谷がメジャーリーグデビューを果たした18年。二橋は社会人2年目だった。この年が終わる頃には、二橋はプロを断念していた。

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