とりわけ嬉しかったのは、こんな言葉をもらった時だったという。

「お前が打たれたのなら、しょうがねえよ」

　誰かの運命を背負った途端に喜怒哀楽もエネルギーも湧き上がってきた。それまで防御率5点台の、どこかのんびりとした普通の先発投手だった男は、自分が何のために腕を振る人間なのかを悟った。

　そもそも、故郷・仙台と縁もゆかりもない当時のホエールズに入った理由からして、この人の性質をよく表している。

「東北高校の先輩に若生（照元）さんという方がいて、ホエールズのスカウトだったんです。大学に入る前から声をかけてもらっていて、4年生のドラフト前に『プロには行きません』と僕は言ったと思うけど、あれ、嘘だもん。出来レースだもん（笑）。今だから言えるけど、若生さんに、そうしろって言われてね。だって先輩だし、若生さん優しかったから」

　その巨体は人の情によって動くのだ。

長嶋茂雄「8回までに試合を決めろ」

　やがて、セントラルリーグでは、巨人の長嶋茂雄監督が横浜戦前のミーティングでこんなことを言うようになったという。

「8回までに試合を決めろ。向こうは最後に魔神がいる――」

　4年連続セーブ王に君臨し、防御率は異次元の0点台へ。その無双ぶりには、奇跡が服を着たようなミスター・プロ野球ですらお手上げだった。こうして「大魔神」は誕生したのだ。

1998年は登板51試合ながら、当時のプロ野球日本記録である「45セーブ」をマークして日本一に貢献　©︎Hideki Sugiyama

　誰もが自分を、スクリーンの中にしか存在しない鬼神になぞらえていく中、佐々木は己の内側で世間のイメージとは全く別のものが増幅していることに気づいた。

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