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「羽生選手のスゴさは、音のタイミングぴったりに跳ぶといったことではない」俳優・石丸幹二が語る“共演して、実感した羽生結弦の美しさ”
text by
いとうやまねYamane Ito
photograph byAsami Enomoto
posted2022/04/26 11:04
石丸幹二と共演した昨年末の「メダリスト・オン・アイス」
「このプログラムは、日本に生きる人間としてより深い部分で分かり合えるというか。この言葉が的確かどうかは分かりませんが、侘び寂びの域まで達している気がするんです。派手ではないし、でもちょっと透かしてみると『美』が浮かんでくる。袖のはためきひとつも計算されていますからね。総合芸術として見応えありました」
「羽生選手に今後勧めたいプログラム曲は?」
人生の転機はその大小にかかわらず、誰にでも訪れることだ。
それは羽生たちアスリートも例外ではない。17年間、看板俳優として走り続けてきた石丸は、42歳の時に劇団四季を退団し、心身の休息時間を設けた。
「劇場の中と稽古場、そして家の三点往復ばっかりでしたからね。季節の移り変わりを感じることとか、社会の一員として多くの人たちと共に生きていることとかを、忙しさの中で省いてしまっていたんです。それが自分の時間を作ることによって、“ああ、こういうことだったのか”と、再認識する機会になりました」
例えば、太陽が東から昇るとか、夕陽がこんな綺麗なんだとか…‥。今まで気にも留めずに見過ごしてきたことが、五感を通して一気に感じられるようになったという。そこには大きな副産物もあった。
「こうした気づきが、後にパフォーマンスをする上で、自分の中のパレットのひとつのスペースになり、より彩り豊かな絵の具が置けるような状態になりました」
石丸の仕事の多彩さは、ここに秘密があるのかもしれない。
「フィギュアの選手たちの中には、現役が終わった後、プロの世界に向き合う人たちがいます。その際、リセットの時間をどれだけ大事に使うかが、その先の人生に影響を及ぼすんじゃないかな。僕もそこを経験してきたので……」
最後に「羽生選手に今後勧めたいプログラム曲はあるか?」と尋ねてみた。
「僕の好きな音楽に、シャンソンがあります。中でも、アコーディオンやバンドネオンという、蛇腹を動かすことで音が出てくる楽器を使った楽曲が好きですね。余韻の中から音が始まって、余韻で音が終わっていく。そういう曲にチャレンジしても面白いかもしれませんね。空気が混じっているような音を羽生選手がどう表現するか、興味があります」
別冊号『Number PLUS フィギュアスケート2021-2022シーズン総集編 誇りの銀盤』に掲載した「アーティストが語る羽生結弦歴代プログラムの美」には、石丸幹二さんのインタビュー本編を掲載。その他にも元宝塚トップスターの女優の望海風斗さんが語る『SEIMEI』、ピアニスト牛田智大さんが語る『パリの散歩道』、元体操日本代表の村上茉愛さんが語る『序奏とロンド・カプリチオーソ』『天と地と』を掲載しています。ぜひご覧ください。