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「羽生選手のスゴさは、音のタイミングぴったりに跳ぶといったことではない」俳優・石丸幹二が語る“共演して、実感した羽生結弦の美しさ” 

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いとうやまね

いとうやまねYamane Ito

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photograph byAsami Enomoto

posted2022/04/26 11:04

「羽生選手のスゴさは、音のタイミングぴったりに跳ぶといったことではない」俳優・石丸幹二が語る“共演して、実感した羽生結弦の美しさ”<Number Web> photograph by Asami Enomoto

石丸幹二と共演した昨年末の「メダリスト・オン・アイス」

「書道の筆で例えるなら、抜く瞬間が一番大事なんです。下ろす瞬間も」

「抜く」というのは、墨を含んだ穂の腹、のど、先端の命毛といった順に、筆をすっと紙面から垂直に離す動作である。「下ろす」はその逆で、筆先から順に紙面に下ろす、いわゆる着筆の動作だ。どちらも力まず、されど神経を最大限に集中させることが求められる。

「抜く瞬間」と「下ろす瞬間」の重要性は、舞台上の役者も同じだという。

 例えば照明をふっと抜く加減を見極めた上で、そのタイミングに役者はどういう表情を残すか……。「羽生選手はそのあたりにも着目してリンク上で演技しているのでは」と石丸は考える。

「彼はアクターですね」

 少し間を置くとこう続けた。「演技が凄いのは誰もがわかることですが、そこに内包された『美』すら感じさせる。僕らくらいの年齢になると、その美が堪らないんです。大人を納得させるパフォーマンスをする。それが羽生結弦なのでしょう」

「袖のはためきひとつも計算されていますからね」

 インタビューの中で、羽生を語る石丸の言葉選びが、とても日本的なことに気づく。前述の書道の話もそうだが、他にも「武道」「四方礼」「侘び寂び」などといった言葉が、自然と口からこぼれた。

 石丸が羽生と共演した昨年末の「メダリスト・オン・アイス」で披露した『マイ・ウェイ』や、ミュージカルナンバーの『時が来た』『今この時』も、原曲の英語ではなく日本語の歌詞で情感たっぷりに歌いあげている。日本語の持つ奥深い美しさに特別な思いがありそうだ。

 羽生もまた「和」を意識したプログラムを演じている。代表作である『SEIMEI』も、北京五輪に向けて作られた『天と地と』も、衣装、振り付け、細部にわたる音作りまで、「和」の世界を余すところなく表現している。

 どうやらふたりには「和へのこだわり」という共通項があったようだ。ちなみに、石丸の好きなプログラムの一つが、『SEIMEI』だという。

【次ページ】 「袖のはためきひとつも計算されていますからね」

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