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井上尚弥とノニト・ドネアの再戦が意味するものとは?「次は階級を上げることが目標」バンタム級で“最後の大一番”になる可能性も
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byNaoki Fukuda
posted2022/04/01 17:04
ノニト・ドネアとの再戦に向けて、記者会見でモチベーションの高さを語った井上尚弥。2019年11月の前回対戦はリング誌の「ファイト・オブ・ザ・イヤー」に選出された
それが、各団体の世界王者が複数顔をそろえたトーナメント戦、WBSSに出場して決勝まで進出。パウンド・フォー・パウンド・ランキング上位ボクサーの井上を一時は追い込み、歴史に残る熱戦を演じたのだから自信を取り戻したのも納得できる。「バンタム級はホームに返ってきたようなもの。スピードが戻ってパワーと融合した」と階級を下げた効果も力説する。
ドネアとの再戦の裏にはカシメロへの怒りも?
そんなドネアとの再戦を、井上は最初から希望していたわけではない。これはドネアがWBC王者になる前の話だが、一度勝っている相手ともう一度試合をするというのはどんなチャンピオンでもなかなか気の進まないものだ。しかし、状況は変わった。モンスターという好敵手を得たドネアは錆びつきかけた刀に再び磨きをかけ、井上のモチベーションを強く刺激するチャンピオンになったのだ。
ドネアの復活に加え、バンタム級を取り巻く状況も井上がドネアにターゲットを絞る理由になった。
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2018年5月、ジェイミー・マクドネル(英)からWBAバンタム級王座を奪った井上はWBSSでIBF王座を吸収。バンタム級4団体制覇をターゲットに掲げた。20年4月、WBO王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)との統一戦が決まってトントン拍子でコトは進むかと思いきや、コロナ禍でこの試合が流れ、潮目が変わった。
延期と発表されたカシメロとの3団体統一戦はその後進展せず、カシメロは他の選手との防衛戦にシフトし、井上も別の相手との防衛戦を余儀なくされた。昨年にはドネアとカシメロが対戦し、2本のベルトをまとめて井上と4団体統一戦というシナリオが浮上したものの、ドネアとカシメロの交渉は成立しなかった。
これだけでもスケジュールが先延ばしになる上に、決定的だったのは、カシメロが昨年12月に予定されていたポール・バトラー(英)との指名試合を直前になってキャンセルしたことだ。ウイルス性胃腸炎という理由だったが、計量をすっぽかしたカシメロに(それでもWBO王座をはく奪されなかった事態に)、井上は憤慨した。