「僕らみたいなタイプをアスリートの世界ではメンズって呼ぶ」

ーーお互いにすぐに分かるのですか？

成宮　もう見たらわかります。体格や着ているものがそうなんですよ。水球部に限らず、他の部活でも「絶対そうだ」とピンと来る人がいましたよ。怖いっちゃ怖いけど、友達を通して紹介してもらって仲良くなって。「実はさ……」「えっ、俺もだよ」となってからは、話が尽きないですね。お互いにいままでのことをブワーッと話して「ああ、わかるわ～」って頷きまくって。そうやって仲良くなった人たちとは親交がなくなっちゃったんですけど、後に性転換した人もいるなんて話を聞いてます。

ーー大学では、いろいろと解放されたといいますか。

成宮　そうですね。誰々と誰々ちゃん付合ってるよとかも、普通の会話であったりしたので。僕らみたいなタイプの人間をアスリートの世界ではメンズって呼ぶんですよ。女子サッカーから生まれた呼び方らしいけど、「へぇ、メンズって言うんだ。じゃあ、自分もメンズだな」と思いましたね。ただ、その頃は「もしかしたら、性同一性障害かもな」というレベルで、まだ確信はできてなかったです。

　水球部の連中や同級生には打ち明けましたけどね。みんな「うん、知ってた」「見たらわかるよ」って反応ばかりで、ぜんぜん驚かれなかったですね。大学はそうだったので、強くなれたってのはありますね。あと、女性の恋人も出来たので。

日本代表時代の成宮涼　©Getty Images

治療でも男性ホルモンを打ったら“ドーピング”になる

ーー大学在学中の20歳で日本代表の選手に選ばれましたが、大学からは成宮さんだけ？

成宮　僕と先輩のふたりだけでした。そうなった以上は、水球のことしか考えられなくなっちゃいましたね。3年になってからは、自分のなかでこのままいけば2020年の東京オリンピックにも出られるかなと思うようにもなって。

ーー女子水球選手として活動してる間は、性同一性障害の治療を受けずに女性として生きようと誓っていたそうですね。

成宮　並行して治療はできないと思ったんですよね。水球に専念したかったのもあるし、その他のことまで考えてらんないと思ったんですよね。だから、もう女子として生きるしかないよねっていう感じですね。あと、治療を始めて男性ホルモンを打つとドーピングにあたるんですよ。やったら、選手は続けられない。

　なので、メンズと呼ばれる人たちで治療を踏みとどまっている人は多いです。その頃の友達で、部活をすべて終わってから治療した人はいますしね。どんだけ、やっている競技のことが好きだろうが、打ち込んでいようが、男性ホルモンを打ったら試合には出してもらえないので。

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