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《日本メディアの“誤表記”問題》フィギュアの五輪金メダル最有力・ワリエワのジャンプを「タノジャンプ」と書いてはいけない理由
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2022/01/08 11:01
ロシア選手権では283.48のスコアを記録し、北京五輪でも金メダルの有力候補に挙げられる、15歳のカミラ・ワリエワ
ワリエワの両手を揃えたジャンプは、どう表記すればいいのか?
それでは、ワリエワのように両手を頭上で揃えたジャンプは何と呼べばいいのか。
この姿勢のジャンプの元祖は、アメリカのアダム・リッポンである。2008年と2009年に世界ジュニアタイトルを手にし、その後シニアに上がってから2018年の平昌オリンピックを最後に引退するまで、息の長い競技活動を続けた選手だ。
リッポンはそれまでタノルッツをプログラムの最後にハイライトとして入れていたが、2009年のエリックボンパール杯で、これを片手上げから両手上げへとアップグレードしてきたのである。
3位になったエリックボンパール杯の会見で、「あなたのジャンプはタノジャンプではなく、何と呼ばれたいか」と聞かれて、リッポンはちょっとおどけながら「リッポンルッツとか、あるいはポンルッツとかどうかな」と答えたことを記憶している。
その後やはりルッツだけでなく、他のジャンプでもこの両手上げの姿勢で挑む選手が少しずつ増えてきた。羽生結弦選手もコンビネーションジャンプの2つ目に入れることが多く、はっとさせられるきれいなアクセントになっている。
という訳で、技術的に言うとワリエワのジャンプは「タノ」ではなく「リッポンジャンプ」である。英語で検索すればわかるが、この二つのジャンプははっきりと区別されている。
リッポンジャンプがデフォルトになる日
もっとも現在、海外ではこの両手を上げるジャンプがいちいち「リッポンジャンプ」と特筆されることは、ほとんどなくなった。これがそれほど珍しい技ではなくなったためもあるのだろう。
特にエテリ・トゥトベリーゼの門下生は、ワリエワのように全てのジャンプでではなくても、ジュニアも含めて両手を上げるジャンプを演じるスケーターがほとんどだ。
全米選手権でマライア・ベルに同行してきたリッポンは、「今は多くの選手がやるようになって、信じられない思いです」と筆者に語った。それほど遠くない将来、この姿勢がジャンプのデフォルトになる日が来るのかもしれない。